ものぐさ物書き 2017-08-17 15:58:19 ID:01bed38fc |
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オレはゴローの目を盗んで、あの人のマンションに入ったんだ。
部屋番号は年賀状で見てわかってたからな。
たぶん、元旦から降った雪が悪かったのさ。
シンジュクって街はおかしな街でな。
ネオンが灯ってるあいだはいいが、お日様が顔を覗かせて明るくなると、人を急に落ち着かない気分にさせるんだ。
こんなところで、こんなことをしていていいんだろうか。いつまでもオレは、このままこうしているんだろうかって、いてもたってもいられなくなっちまう。
しかも美しい雪景色だぜ。
恋のキューピッドを務めてみてえなんて、オレは妙な仏心を起こしていた。
いや、もしかしたらそうじゃなかったのかもしれねえ。
ただ、ゴローにかこつけて、あの人とじかに話してみたかっただけなのかもしれねえよ。
正直言やあビデオを見て以来、オレの頭ん中にゃあ、素っ裸のあの人が居座って離れようとしなかったんだ。
ゴローとヨリを戻せないだろうか、なんて思ったのは嘘で、オレただ、綺麗なあの人をもっとそばで見て、話してみたかっただけなのかもしれねえ。
ドアの前に立って呼び鈴を押す直前、心臓がドキドキ鳴ったのを憶えてるよ。
間近に見るあの人は、なぜか遠くから見るよりも、ビデオのなかにいたときよりも、ずっと小さく見えた。
肌がボロボロで、酒臭かったのを憶えてる。
しどろもどろに事情を話したオレの顔を、しばらくじっと見つめていたけれど、それから薄く微笑んだみたいだった。
そして軽蔑するように吐き捨てたんだ。
「あんた、いったい何の話をしてるの?いったい何が目的なの?ゴローなんて男は、あたしぜんぜん知らないよ」
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