ものぐさ物書き 2017-08-17 15:58:19 ID:01bed38fc |
通報 |
あの人が、誰かに宛てた年賀状だった。
相手が転居しちまってて戻ってきたのが、他の年賀状と一緒に混じってて、元旦の配達分に入ってたんだ。
だけど、こんな年賀状ってあるだろうか?
「この野郎のことなら知ってる」
オレが首をひねっていると、ゴローがぽつりと言った。
「こりゃ、去年の秋ごろから彼女が付き合ってた医者だ」
ああ、と思った。
そういう話はたくさんあったんだ。
医者、青年実業家、広告クリエイター。もういまじゃ全部は憶えちゃいねえが、ゴローがオレに話して聞かせただけでも、彼女は何人もの男と付き合ってたらしいや。
そう聞かされたときから、オレにはピンときていたんだ。
ゴローのやつは、はっきりは言わなかったが、結局あの人から捨てられたんだな…ってさ。
だけどここ何ヵ月かは、相手はその医者だけだったらしいのに…。
「おい、こりゃあ……、別れの手紙ってやつだよな」
ゴローの言うとおり、そう考えるしかなかった。
年賀状が別れの手紙だなんて、なんてひどい話だろう。
なあ、おまえだってそう思うだろ?
医者には妻子がいたらしい。
年賀状は着かなかったわけだから、その野郎のことはどうでもいいが、年のはじめに向かってこんな文句を書くしかなかったあの人は、いったいどんな気持ちだったんだろう。
会いにいったらどうなんだ、と、オレはゴローに言ったんだ。
きっと寂しい思いをしているんだろう。慰めてやることが大事だし、それに、そうしたら、もしかしたらあの人の気持ちだってまた…ってなことをな。
するとゴローは両目を見開いてから、怒ったような顔で首を振った。
「バカ野郎!俺なんか出る幕じゃねえや!」
いまにして思えば、あん時のゴローの顔を見て、オレだって気づくべきだったんだ。
なんであんなことをする気になったのか…いまじゃもう、まったくわからねえや。
トピック検索 |