雪月桜 2017-06-18 01:44:33 |
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ゆっくりと男の方を見ると、男の左手には艶の少ない闇色の拳銃が握られていた。
銃のサイズは卯月の物と変わらず、それほど重いようには見えない。
「言ってなかったからね。それに出す必要ないと思ってたから」
たやすく拳銃を扱うその仕草は、ナイフを扱っていた右手よりも軽い。
おそらく左利きだったのだろう。
「俺を相手にするのに、利き手は必要ないと思ってたって事かよ」
嫌みを含め発する口も、もうまもなく沈黙する事になるだろう。
そんな卯月を見おろしながら、男は楽しそうに微笑んだ。
「うん、そう思ってた。でも君が予期せぬ動きをして、僕の右手を傷つけた時、今回の子は違うなって分かって嬉しかったよ」
卯月に切られた男の右手からは、いまだに深く赤い血が地面に滴り落ちていた。
その痛みを気にもせず、男は卯月に笑みを向ける。
「君みたいな人は珍しいね」
恐怖に駆られ目線を逸らしたいと卯月は思った。
銃を突きつけてくる男の左手にぶれはなく、優しく囁く声はどこか冷めていた。
「でも、残念ながら君に僕は狩れないよ。それじゃあ、おやすみ」
男の指先が、引き金に触れた。
どうせここで終わるならせめて俺をしとめた奴の顔を最後まで見ていたい。
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