赤の王 2017-06-04 16:26:15 |
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>三月兎
嗚呼、どうやらその様だ。(彼の言う芸術家像を分かり易く示しているのは他でもない彼自身。ふっと短く笑ってひとつ確かに頷きながら、隣を歩く彼の横顔をぼんやりと眺めた。アリス、三月兎、帽子屋――此処まで聞いて、あとは他に誰が居ただろうか、と自身もよく知る御伽噺の登場人物を思い返しながら彼の話に耳を傾ける。この世界にとっての"アリス"は自分なのだと思うと、些か不似合いな役目を仰せつかってしまったものだと複雑が思いがしたが、先程から彼があまりに自然に自分の事をその名で呼ぶものだから、いちいちそこを穿るのは野暮なのかも知れないと妙に物分りの良い自分に気が付いてつい苦笑いした。此処に来てから時間が経てば経つほど、自分が此処に居る事を不思議に思う気持ちが薄れていく様な気がする――そう思うと、彼の言葉に対する返事よりも先にふう、と息をつき「中々帰れない、そうなってしまう理由が何だか分かった様な気がするよ。」と肩を竦めて。とは言え、戻る為の方法が分からない以上、こうして世話を焼いてくれる人間との関係を蔑ろにする訳にもいかず、疲れの色の滲み始めていた表情にやんわりと笑みを戻したかと思うと「王の候補か――どうも、まだ私の知らない話が山積しているようだね、此処には。とは言え、早い段階で君の様に親切な相手を見付けられたのだから、きっと私は運が良い…そうだろう?三月兎君。」と、彼に咎められた愛称についてはさっと訂正をした上でそんな言葉を返してみせた。そうこうしている内に遠くに見え始めた邸に気が付くと、ほう、と小さく声を漏らす。茶会という場そのものはあまり得意な方では無いものの、この場合迷い込んできた身としては彼の言う通りにしておくべきか。そんな考えもあって、特に嫌がる素振りは見せず、ひとまず誘導される庭の方へゆったりと歩みを進めて)
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