赤の王 2017-06-04 16:26:15 |
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>三月兎
これはこれは…失礼をした。君にとってあの薔薇がそんなにも価値のあるものだとは思いもしなかったものでね。(宙を舞う薔薇を見た彼がどうするのか、試す様な眼差しがその動きをじっと見詰めていた。両手でそっと、放っておいても直ぐに萎れ始めてしまうであろうその薔薇を受け止めた彼の姿に目を細めれば、反省の気持ちなど欠片も有りはしないのだが少なくとも言葉の上では彼の嫌味を生み出した先の行いについてを詫びる。とは言え、自分にとって彼の掌の中にあるのはあくまでも"死んだ薔薇の劣等生"であり、慈悲をもってそれを扱う彼を理解するのは困難だった様で、意図せず何処かつまらなさそうな様子を見せていたかも知れない。丁寧に白衣のポケットの中へと消えていく薔薇を見送った頃、再び此方へ舞い戻って来た視線を見返すと、涸れた噴水のざらつく縁に手をついてゆっくりと立ち上がり)これ以上、この薔薇の花に囲まれていては気が狂いそうだ――まして、悪戯を仕掛けてくるような悪意のある薔薇とあっては尚更…(城へ向かってしまえば今度こそこの不可思議な状況から脱出する術を失ってしまう、そんな気がしていた。此処で別の誰かと出会うのを待っているのも億劫である。現時点で互いにあまり好意的では無さそうだと認識はしていたものの、歩けど歩けど終わりそうも無い薔薇の園に疲れ切っていたのも事実。態とらしい溜息と共にそう吐き出すと、此方を振り返る彼の後へ続く様に足を踏み出して隣へ並び、心にも無い一言に薄い笑みを添えて)構わないのなら、君に着いて行く事にしようか。興味があるとすれば、あの城よりも寧ろ君の美的感覚の方なのでね。
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