(　 　汚 部 屋 　 　) 　　

…部活、を、やめる？
( 彼女の吹くトランペットが好きだった。細い体の何処から出るのか疑うほどの力強さや人柄を表したような柔らかさ、優しさ、全部が合わさった音色。だからこそ、彼女が躊躇いがちに発した言葉に頭が真っ白になる。人気のない公園で気晴らしにでもと言われて吹いていたトランペット、ポップスからクラシックまで様々な曲を吹いていた私に彼女はぽつりと言葉を漏らした。思わず鸚鵡返ししてしまった私の方を見ずに彼女はそう、と笑ってぱこぱことピストンを鳴らす。その態度が気に食わなくて、勢いよく立ち上がった私に彼女は驚いたように瞬きを3回。怒りで顔を染める私に目もくれず彼女はそっと息を吸い込んでマウスピースに唇を付ける。___ 「 軽騎兵序曲 」。初めのソロのところだけ吹き終わると、横目だけで私を見て言った。「 2年の時、ここのソロどうしても吹きたかったから先輩から奪ってさ、評価表でも褒められて。最っ高の気分だったなぁ 」じゃあなんで辞めるの、と言おうとした口が金魚みたいにはくはくとして声が出なかった。頬を伝った涙が綺麗で、見蕩れてしまったから。 )