背徳のAmbivalent　／　〆

お気遣いと有難い御言葉に心より感謝する。ああ、お前と少しでも長く付き合いを続けていけたらと願うよ。（　差し出された手を固く握り　）それから質問への丁寧な御返答も有難う。此方も時代や場所に特に強い拘りを持っているわけではないから、最初に言っていた現代の西洋の儘で構わない。寧ろ時代は新しい方が今後何かとやり易い事も有るだろうし、それで行こう。（　こくり　）悪魔のお前が直々に教会へ来るなんて自ら望んで死地へ赴くようなものじゃないか？後になって後悔してくれるなよ。（　眉顰め　）…まあ、何にしろ物語の舞台が明瞭になって助かった。
――ええと、キャラ作りに関してだったか。勿論、お前の求める神父の人物像に少しでも近づけるよう努力させて頂く。（　トンと胸叩き　）此方からの要望もとりわけ特記することは見当たらないが…強いて挙げるとすれば、風貌は少し人間離れしたものが悪魔らしくて好ましいな。絵画の中に見る彼奴らには歪に曲がった角やら蝙蝠の飛膜のような大きな翼が生えているよ。…然し此れは単に私の知識の中での悪魔像に過ぎないし、況してや強要するものではないからな。その心に思い描く通りにキャラを作ってくれたら良い。お前が一体どんな姿をしているのか、私も早くこの目に映してみたいよ。（　目閉じ　）

お前の口からそんな願いが聞けるとは光栄だな。…なら俺は、お前を逃さねえように精々この手を繫ぎ止める努力をしよう。（　握った手へ故意に力込め　）そうか、賛成意見で有難いぜ。特に異論も無ければ、時代区分はこのまま現代の西洋と言う事で話を進めるぞ。ああ、俺の身を案じてくれるなら、別に教会に限らずともアンタの行く先々に現れてやるが？要は聖職者としてのアンタを穢していけるのなら俺はそれで良い。（　しれっ　）
容姿への要望についても了解した。…其方からの返事は具体的な回答を提示してくれるから本当に助かる。元々世界観は神話に則った設定を好むこともあり、そういう意味ではお前の希望は願ったり叶ったりだな。有難く取り入れさせて貰うとするよ。（　ふ　）此方の望む人物像もあくまで希望にすぎねえから、参考程度にしてくれるだけで良い。後はそっちの思う儘の自然体で会えることを楽しみにしてるぜ。――じゃ、悪いが此方の詳細設定が仕上がるまでちっとばかし時間を貰う。そうさな…２、３日以内には記載できるだろう。（　軽く顎擦り　）

２、３日だな。了解した。（　深く頷き　）では私は先に仕上げて来た物を此処に置いておくので、時間の空く時にでも目を通してくれると有難い。（　表側を伏せた紙を机上に差し出し　）その上で何か不備や不都合が有れば遠慮なく言ってくれ。必要とあらば手直しした物を再提出させて頂くよ。手数をかけるが、確認宜しく頼む。（　軽く一礼　）



名前　Heinrich Ohlendorf （ ハインリヒ・オーレンドルフ ）

年齢　28歳

性格　敬虔の念が深く、信仰心に篤い模範的な信者。神を深く敬い仕え、神父として与えられた使命に誇りを抱いている。清廉潔白で徹頭徹尾禁欲主義的。私財を多くは持たず、貞潔を守り、慎ましく質素な生活を営む。高潔で気高く芯の通った強かさを持ちながら弱い者や貧しい者の心に寄り添う慈愛の精神に満ち、救いを求める者が在れば迷わず手を差し伸べる。曲がった事を嫌う極めて堅実な気性だが、その真面目すぎる性格故に杓子定規な思考で融通が利かず、原則原理に縛られ柔軟な対応ができないなど不器用で容量が悪く、どんくさい感じが抜けない。

容姿　癖の無い金色の頭髪は全体を緩く後方へ流してあり、後ろ髪は項にかからない程度に短く切り揃えられ、前髪は七三分けのアップバングに。くっきりとした二重瞼の双眸は淡く澄んだ碧色の虹彩を持ち、眉尻は上向きに釣りその厳格な性格を伺わせる。鼻梁は細く真っ直ぐに通り、薄い唇は一文字に引き結ばれ、精悍さの表れた端正な顔立ち。常に姿勢良く佇まい、威厳ある凛然とした雰囲気を醸す。背丈は180cm程、肌は白く、薄らと筋肉が乗った比較的細作りな体つき。平服として足丈の黒いキャソックを纏い、首元に銀十字架を提げる。ミサをたてる際には白いアルバを祭服として着用。

備考　ローマ＝カトリック教会に属する教区司祭。町の小さな教会の神父として働き、教会に隣接する居宅を構え一人で生活している。妻帯を禁じられているため独身。本職の仕事の傍ら、宗教家としての豊富な知識と経験を見込まれ原稿執筆や講演などの依頼を受ける事も屡々。

待たせちまってすまねぇな。其方の提出物にも目を通させて貰ったが、不備等は一つも見当たらない。期待以上の好みの神父さまで柄にもなく緊張しちまいそうだぜ。思ったよりもずっと、アンタが神々しい姿だったからかね。（　提出用紙と相手とを見比べ　）…ま、冗談はさておき。こっちも設定が仕上がったんで載せておく。アンタに比べりゃまだまだ垢抜けねえ文章だが、加筆修正が必要な点が無いかどうか確認して貰えると助かる。イメージと違う部分があればご指摘頼むぜ。


名前 / アデル

年齢 / 不詳 (ゆうに千年以上の歳月を経ている)

容姿 / 外見年齢は20代後半。頭部には山羊の其れを模したような亜麻色の角と、肩甲骨からは被膜状の黒い翼を生やしているのが特徴的な人間とは似て非なる体貌の悪魔。犬歯が長く鋭角に発達しており、耳輪がやや尖っている。元来衣服を身に着けるという習慣に馴染みが無く、とりわけ関心も無い為黒の絹布一枚を身に纏い、左肩のみピンでとめたキトンのような衣類を着用するなど身なりは時代錯誤的。濡羽色の黒髪はサイドが耳の半分を覆う程度のミディアムヘア。線の確りとした輪郭と目鼻立ちの際立つ彫り深い顔立ちで整った容貌だが、目つきの悪い三白眼が他者へ威圧感を与えがち。線は細いものの筋肉質な肉体を持ち、露出した右肩から見ても男性的な体格であることが伺える。

性格 / 言葉や仕草には挑発的な言動が目立ち、傲岸不遜の態度を崩さない。人を貶めることに何の抵抗も無く眉一つ動かさずに悪行の限りを尽くすことの出来る冷酷な思考の持ち主。刺激やスリルを求める性格傾向にあり身一つで教会に現れる様はまさに大胆不敵。基本的に些細な事には拘らない淡白さを持ち合わせているが、その実腹の内では何事にも打算的に物事を秤に掛けており、必要であれば時として紳士にも善人にもなる。

備考 / 人間を誘惑し堕落させ、神への信仰心を絶とうとする魔物。高潔な魂を穢し、貶め、霊魂を喰らう。僅かの魔力を有しており、短時間であれば飛行も可能だが教会内では一切の魔力の使用は無効化される。聖水や聖酒、聖銀など聖別された物品には弱く、触れれば皮膚が爛れてしまう為にミサや祭事を執り行っている間は敢えて教会にも寄り着こうとしない。

謝るのは止してくれ、私だってこうしてゆっくり返事をさせて頂いてるんだから。（　片手の平を相手の方へ向け　）先ずは提出書類をご確認頂いたこと、そして身に余るお言葉までかけて頂きどうも有難う。其方の希望に沿えているか内実心配だったので、そう言って貰えて正直安心したところだ。（　胸に片手置き　）
それからお前が書いてくれた文も読ませて頂いたが…イメージと違うも何も、寧ろ私が乏しい知識で描いていた想像なんかは遥かに上回る完璧な悪魔で驚かされたよ。此方の要望も充分過ぎるほど取り入れてくれて有難う。（　会釈　）勿論修正を頼む箇所なんて一つも無いのだが、一点だけ確認させて欲しい。悪魔というのは自然を超越する存在だろう。私には今こうしてお前の姿がはっきりと形をもって見えているわけだが、これは他の一般市民にも同様に言える事なのだろうか。例えばお前が任意の相手に限り姿を見せる事ができる…とか、そんな能力を有していても何らおかしくはないだろうと思ってね。（　ちらりと紙面に視線を落とした後、相手を見て　）どうやらお前は魔法のような不思議な力を持っているようだし。…度々質問してしまって面倒をかけるが、どうかお答え願えるだろうか。

…そうか。お前にそうまで言って貰えれば此方も一安心だ。礼を言うべきは俺の方だぜ。（　目伏せ　）

それと質問についてだが、俺にとっちゃ特定の相手にしか姿を見られない方が都合が良いかもしれねぇな。俺のようなナリでも人目を気にせず身動きが取れるようになる。（　諸手を広げ　）考えたんだが、人間の信仰心を絶つために現世を彷徨う悪魔として、主に聖職に就く者の前に姿を見せるというのはどうだろう？お前は偶然にも悪魔に目をつけられた一人というわけだ。何なら、お前だけが俺の姿を視認出来るという事にしても良い。俺が意図してこの姿をアンタの前だけに現すも良し、取り憑くも良し。ーー…まァ、悪魔に取り憑かれるような心の隙がアンタにあるとは思えねえが、俺の考えとしてはそんなところだな。
質問を質問で返しちまって悪いが、此処まででお前の可否を聞いておいても構わないか？ご覧の通り其れについてはまだ考えが纏まっちゃいなくてな。設定を固める上でも参考にさせて貰いたい。（　面目無げに視線を逸らし　）

お返事頂き有難う。では先ず、お前が姿を見せる相手は特定の者に限る、という事で良いんだね。…今だからこんな事を言うが、其の方が私にとっても何かと都合が良いんだ。（　声潜め　）教会は人の出入りが多いという事も有るし、もし偶然お前が教会に出入りするところを他の者に見られでもしたら厄介だ。私が悪魔を教会内に招き入れているだなどと噂が出回り、其れが大司教様の御耳にでも及んだら――…いや、これ以上考えるのは止めておこう。（　眉間押さえ　）ええと…つまり此方としても、お前の姿を見る事が可能な人間を聖職者か或いは私に限定してくれると非常にやり易いという訳なんだが、その何方にするかは其方の都合に合わせて決めてくれて構わない。私の教会は小規模なので神父は私一人だし、ミサや典礼を行う際に助祭の者が司式を手伝いに来るが…幸いそういう時はお前も大人しくしていてくれるようだしね。（　微笑　）基本的にお前が教会で会いそうな聖職者は私のみと考えて欲しい。そういう訳で、お前が姿を見せる相手を私含む聖職者の範囲に定めたところで、結局は其れを私唯一人に限定したのと然程の違いは無いという事だ。以上を踏まえて頂いた上で、お前が最もやり易いと思う設定に決めて貰いたい。
…此方からの返答は此れ位になるが、不足が有ればまた何でも聞いてくれ。

…なるほど。お前の意見を聞く限りでは、姿を現わすのはお前の前だけに限定するのが一番良さそうだな。幾ら顔を合わせる機会が少ないとはいえ、万一他の聖職者に見つかればどの道お前の体面に傷がつく事になるんだろう？だとしても、こそこそと人目を憚ることが出来る程俺は器用じゃねえし、性にも合わないからな。大した違いも無いならいっそ、お前の前だけに姿を見せることにしよう。良ければその体で話を進めてくれねぇか。（　伺い見て　）

――…ああ、それと。質問ついでに此方からもちょいと確認させて貰いたいんだが、お前のことは何と呼べば良い。拘りがあるならこの際に教えて貰えると助かるが、無ければ愛称でも付けて呼んでやろうか。（　牙覗かせ悪戯めいた笑み零し　）

そうして貰えるのなら此方としても非常に有難い事だ。それに互いにとって好都合なら尚のこと其れに決めてしまうのが手っ取り早いし最善だろう、無論賛成だよ。（　相手の目を見て頷き　）――では、この件については一先ず解決、という事で。（　目閉じ　）

…愛称、ね。（　顎に指をあて　）それも良いだろう、是非とも楽なように呼んでくれ。特に拘りも無いので何と呼んで頂こうと構わないよ。状況や関係性の変化に伴って変えていくも良し、その辺りは気の向くままにやって欲しい。…お前の方は如何なんだ？もし何か希望が有るのなら其れに従って呼ばせて頂こうと思うのだが。（　緩く小首傾け　）

ああ、そういうことで頼む。具体的な意見をくれたお陰ですんなりと決めることが出来たぜ。有難な。（　ふ　）

そうか。それなら有難くその時々の気紛れで好きに呼ばせて貰おう。まぁ、一度決めた呼び名は滅多なことでは変えねえだろうが…――そうだな。取り敢えずオーレンと呼んでも構わないか。（　ちらり　）俺の方もお前と同じで、呼ばれたい名に拘りはねぇからそっちが呼び易いように呼んでくれ。つっても略称出来るほどの長さもねぇがな。多くの人間からは悪魔だの魔物だのと呼ばれることが多いが、それこそ慣れた頃に名で呼んでくれても。この件についてはアンタに任せるよ。（　肩ぽんぽんと　）

成程、オーレンか。…良い案だ。教会へ通う信徒たちからは"ハインリヒ神父"と名前の方で呼ばれる事が多いから、姓の方の愛称で呼んで貰えるのなら分かり易くて良い。是非ともそう呼んでくれ。（　微笑　）此方からは…そうだな、お前と出逢って間もない時分は特に強くお前の事を嫌忌するだろうから、罵る意味合いも含めて"悪魔"や"魔物"と呼ぶだろうね。暫く経ってから頃合いを見て名前で呼ばせて頂く事にしようと思う。それで良いかな？（　真っ直ぐに眼を見て　）

――…さて、私から確認したい事は現時点ではこれ以上無いのだが、其方はどうだろうか。此方の準備は整っているので何時でも物語を始めて頂いて構わない。勿論、他に何か確認事項が有るのならば言ってくれ。互いに納得のいくまで話し合ってから始めた方が、後々困る事も無いだろうしね。

此方の案まで通して貰えて本当に有難い。…ああ、俺もそれで異論はねぇよ。名で呼び合う迄に至るまでの過程を是非とも楽しませてくれ。（　こく　）
――他の確認事項も今は思い付かねぇな。先に相談したい設定なんかはアンタの協力もあって解決したところだ。…そういうわけで、初回を用意させて貰った。関係性は出会ってから間もない頃、というつもりで接触を図ったが、ロル含め何か支障があれば何でも言ってくれ。力及ばず短い文章になっちまったが、段々と話を広げていけたら幸いだ。



(　連日のミサ聖祭を挟み久しく離れていた教会へ気紛れに立ち寄ると礼拝堂にて早速目当ての神父を前方に確認し徐に双眸を絞り　）――…オーレン、暫く振りだな。今日は随分と此処も静かなようで。（　身廊を通し其方に向けてゆっくりと歩みを寄せ、空席の目立つ長椅子へ一瞥をくれながら嫌味な笑みを口元に薄く含ませ　）

そう言って頂けて安心した。質問ばかり続けてしまいお前をうんざりさせているのではないかと心配していたところだったよ。…初回の方も有難う。力及ばずだなんて言わないでくれ、其方の巧みな文章に思わず気後れしてしまいそうなくらいだ。稚拙ながら此方も続けさせて頂いたので、其方も何か問題がある時には何時でも言ってくれ。では、改めて宜しく頼むよ。（　会釈　）



――！（　信徒が去った後の静寂に包まれた礼拝堂の最奥、ステンドグラスから差し込む淡い光の下に深く頭を垂れ祭壇の十字架へ向かい捧げていた祈りは背中越しにかけられた声によって断たれ　）…お前か。此の場所へは二度と来るなと告げた筈だが。（　立ち上がりざまに振り返ると身廊の先に声の主―数日前にも教会へ姿を現したあの忌々しき魔物が居り、此方へ歩み来る彼へ剣呑に尖った目つきを向け　）

相談に積極的な事は物語を深めていく上でも助けになる。事実お前が質問をくれたお陰でより設定も固められた事だしな。今後とも質問があれば遠慮なく聞いてくれ、お互い様だ。（　口元緩め　）
――お前こそ、綺麗な描写をするじゃねえか。益々お前と関わっていく今後が楽しみだ。此方からは何も言うことも無いが、また何か相談事が思い付き次第声を掛けさせて貰う。…ああ、此方こそどうか宜しく。（　へら　）さて、話しも一段落した所で、他特に相談事も無ければこっちの文章は蹴ってくれて構わねえよ。



おいおい、水くせェこと言うなよ。いつから教会は来訪者を選好みするようになったんだ？――俺はただ、品位のある人気者の神父さまを独り占めしに来ただけさ。（　遂には拒絶の色滲むその表情が確りと視認出来る程の位置まで距離を詰めた所で、皮肉めいた軽口を連ね殊更に嗜虐的な笑みを深めると、まるで玩具を弄ぶかのような気軽さで相手の頬へ片手を伸ばし無遠慮に触れて。輪郭に添い何度も往復して指先を滑らせ其の手触りを愉しみながら、薄碧の瞳を覗き込み　）

戯言をぬかすな。…目的は教会の堕落か？穢らわしいサタンの手先め、お前の思惑通りになどなるものか！（　目前まで間合いを詰められて尚臆する事なく毅然と構えた儘、相手の茶化すような口振りに眉根を寄せて嫌悪感を露わにさせ。頬を弄う手は軽侮の表れか、或いは一種の挑発行為か。孰れにせよ此の儘相手に勝手させる気など無く其の手をパシンと音が鳴り響く程に力を込めて叩き落とし、振り下ろした手で胸元に提げた銀十字架を固く握り締め　）

（　会堂に響く乾いた音と共に数拍遅れてじわりと痛み出す片手。悪魔相手に果敢に立ち向かわんとする強い気迫に満ちた声を瞠目ののちに忌々しげに双眼を眇めつ受け止めると、何故そうまでして実体の無き存在を信じていられるのか理解出来ずに哀れみさえ含む眼差しを彼と彼の胸元の拳へ注ぎ　）どれだけ神に祈ろうと、神はお前に応えはしない。お前を助けちゃくれねえんだよ、オーレン。…だが俺なら、お前の願いも望みも、何だって叶えてやれるぜ。（　心の深層へ語り掛けるかのように誘惑の言葉をその耳元に囁き　）

神に対しかような侮辱…！恥を知れ！（　信仰の対象である神の存在を信じ続け一度たりとて其処に疑念を差し挟んだ経験など持たぬ己にしてみれば耳朶の傍から直接吹き込まれる甘言は神を軽んじ況してや悪魔の優位性を説く紛れもない冒涜行為であり、となれば当然頭に血を上らせ憤然として語勢を強め　）――主は悪魔の誘惑に遭われた時仰られた、人はパンのみにて生くるにあらずと。我々は神の御言葉により生きているのだ。お前のような者に叶えて貰う願いなど無い。立ち去れ、地の底へ帰れ！（　十字架を握る片手に一層強く力を込め、目角を立て殺気さえ孕んだ視線で睨みつけ　）

…そんなものは綺麗ごとだ。誰もがお前のように高潔でいられると思うなよ。甘い蜜を与えてやれば簡単に堕ちていくのが欲深い人間の性だ。聖職者とて例外じゃない。（　己の発言によりみるみる表情を変え激昂する様を見るのは愉快で、底意地の悪い笑みを湛えながら相手とは対照的なまでに冷然と反駁を試み。悪魔の誘惑に陥落してきた人間を幾度も目の当たりにしてきた事実が、彼もまたその中の一人に過ぎないであろうと軽視させて　）アンタだって欲が無い訳じゃあるまい。…あまり煩く囀るようならその口を塞ぐぞ。（　とはいえ悪態を黙って聞き逃せるような寛容さは持ち合わせておらず、勢い任せに片掌で相手の両頬を乱暴に掴んで　）

――…ッ！（　彼の主張は虚実ではなく、寧ろ人が誰しも生まれながらにしてその内に強い欲望を持つという点において事実であるものの、己に言わせてみれば然し其れは敬神の心を養い確固不抜たる精神を育てることで節制し得るものであり、欲に溺れ堕罪するなど敬虔な信者には絶対に有ろう筈の無い事として自負していて。そう持説を以て反論すべく再び口を開きかけるも、相手が片腕を持ち上げるのを視界の端に捉え反射的に身を後退させようとした先で敢え無く背に祭壇があたり、喉から発せられようとしていた声は両頬を掴まれた事により遮られ。先程迄とは違う手荒な行為からは明らかな彼の苛立ちが見て取れ、思わず気圧されて息を呑み　）…っ手を離せ。舌を抜かれようが、口を縫い付けられようが構うものか！幾許かの苦痛など、主が十字架を背負った苦しみを思えば些細なものだ。（　現状を招いたのは自分自身であるとはいえ、悪魔の怒りを買ったとなれば既に命の保証さえ無きに等しいだろう。改めて内心に慄然とするものを感じ、遂に頭を擡げ始める虞を震えごと押し殺すかのように切歯して。今はただ、教会の宿敵である悪魔に神の御前で屈服するなど決してあってはならぬという強固な意志だけが己を鼓舞し、頬へと伸ばされたその腕を掴み　）

お前の姿が見えなくなってから幾月もの日が経ったが…どうしたものか。真に悔しい事だが、こうして一人祭壇の前に立っていると、時折お前と共に居た時間…交わした言葉の数々を、不意に思い出す事がある。
忌まわしき悪魔が聖なる教会に足を踏み入れるなど言語道断！…などと強がってはいたが、思えばいつも、私はお前があの大きな翼で此の場所へ降り立ち、闇闇の内に私だけに姿を見せてくれる特別な時間を――存外愉しんでいたのかもしれない。悪魔を相手にこうも感情を揺さぶられるなど、よもや聖職者失格だな。神父としての席を追われても文句は言えないだろう。…だが、そんな事はどうだって良いんだ。身の振り方など幾らでも有る。

もし今、どこかで私の声を聞いているのなら最後に一言だけ伝えさせてはくれないか。
お前と過ごしたのはほんの僅かな短い時間だったが、私にとっては掛けがえのない大切な記憶だ。私などの教会に日々足を運んでくれた事に感謝する。
お前が私の知らない所で元気にやっているのならそれで良い。そうあることを祈っている。もし、またどこかで違う形で出逢う機会が有れば、その時は改めて宜しく頼むよ。…最後になるが、充実した時間をどうも有難う。