2017-01-04 21:35:31 |
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お前は今まで幾つ無くした?
[ 月白 ]
珍しく歩いて外出したものの何の因縁か大雨に当たり、高価なものだという桃色の傘から落ちる雨粒を眺めている。雨は一向に止む気配が無かった。
視界が歪んでは戻り、くるりと回転しては戻り、脳に霞が掛かり出す。
いつものパターン、特に珍しくもないそれを軽く顳顬を叩いて誤魔化すと、ぼんやりとしていた視界がやけに綺麗に映る。
「 … ッたく酷い雨だよねェお嬢さん? 」
鉛色の、お世辞にも綺麗とは言えない色をした髪が鼻先を掠めた。
ゆっくりと唇から滑り出したような、耳障りの良い声が鼓膜を揺らす。
全く見覚えのない顔の人間に話しかけられるのは初めてではない。どうせ両親のことを知っているのだろうと明ら様に嫌な顔をしているはずだったが、彼は特に気にした様子もなく笑った。
ぞくり、と、背筋が凍りそうなほど美しく。
髪と同じ色をした瞳を緩く細めて、柔らかに、艶やかに。
「 …… かわいそうな女の子 」
そう、言った。
ばちん、と音がして右頬に激しい痺れがはしった。数秒後に訪れた痛みは、ジリジリと皮膚を焦がすように引っ付いている。
お付の若い女の人の短い悲鳴と父の怒声を聞きながら、寧ろこれで済むのかと雛はぼんやりかんがえていた。
雨の日に令嬢が使用人も付けず、遅くまで人通りの少ない公園で遊んでいた。
そんな事をしたなら、以前なら3回は力一杯殴られた挙句に一晩中外に放り出された筈だったが、どうやらまた失ってしまったらしい。
雛にとっての全ては両親だった。何をするのも両親の言いつけをきちんと守りぬく良い子に育てられたから。
言いつけを守らなければ、大切なものを無くすのだと言う。それが何かは今もわからないけれど、きっとそれは愛情だとか期待だとか、そういうものなんだとおもったのはつい最近で、罰が急に軽くなった日だった。
もういい、と言われているような気がした。
雛の瞳には、何も映っていない。
仕置と称して閉じ込められた、地下にある牢屋のような場所。時刻も全くわからない暗闇の中、自分の中で何かが壊れる音を聞いた。
「 もう、いいよ 」
助けて。
_____ 桐くん。
「 仰せのままに、お嬢様 」
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