2017-01-04 21:35:31 |
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そろそろ正直になろうよ。
ほら、見つけられそうじゃない。
隠したって無駄だって!
きゃははははは、ばあか、
みーつけた。
[ 青渴 ]
二卵性双生児、しかも男女となると、そっくりそのまま同じ顔で生まれる事は無い。良い例だ。
両親のどちらからとったとも思えない垂れた大きな目は、見つめられる度に心臓を掴んだ。赤く色付いた唇は、緩やかに弧を描いた。
花岡由鉉は、真面目な子だった。
叱られることはしなかったし、しようとも思わない。率先してリーダーに名乗り出る、そんな子供だった。
勉強もそれなりに出来た。授業を聞いて、家でノートを見返せば簡単に頭に入った。テストの点も上々、クラスではトップ。挙手回数も多く意欲的で大変良い生徒。まさに優等生。
由鉉くんは凄いね、頭良いね、なんてもう何千回言われてきた言葉は相変わらず嬉しいしけれど、それとは裏腹に花岡由鉉の名前の横に3桁の数字はほとんど存在しない。
予習復習も欠かさず、宿題も丁寧に何度も解き直し、更にはテキストを買って貰って自主的に学習した。それでも、見えない糸に引っかかって転んで、1等にはなれなかった。
通知表にも、ぽつぽつと違う数字が並んでいた。
それを息をするように、簡単に、奪っていったのは。
「 穣はいいよね、頭が良くて 」
そう言ったのは小学5年生の夏、1学期がちょうど終わった日。ジリジリと蝉が鳴くより小さな声で言ったそれは、穣の耳に溶け込んでいる。きっと今も。
自分はこんなにも努力しているのに、大した努力もしないで当然の様に数字を並べる穣が憎い、と。
その日は、頭痛で眠れなかった。
中学生の秋、初めて穣より上の点数をとった2学期の期末テストで、由鉉は微かな違和感を感じた。ほんの些細な、僅かな糸の解れのような。
花岡穣という人物がどういう人物か誰よりも知っていたからか、由鉉が穣を特別視していたからか理由は定かでは無いが、その時たしかに由鉉は、花岡穣は既に、花岡穣では無いのだ、と気がつく。
由鉉が4文字の重み、圧力を、改めて叩きつけられた瞬間。
花岡由鉉は賢い子だった。
その感情にはとうの昔に気が付いていた。これに名前をつけてしまえば全て駄目になると分かっていたから、自分を騙して引き出しに入れて鍵をして隠しながら、薄まるようにと時間を引き伸ばしていた。
その引き出しの鍵を手渡したのは、濃くなるように積み重ねてきたのは、花岡穣という人物だ。
ぺらぺらの感情に名前なんてあるのか、と鼻で笑ってやりたかったけれど、残酷なまでにその感情は濃くなっていくだけで、自分を騙すのさえ難しくなっている。
だから由鉉は諦めることにした。
鍵を受け取って引き出しをこじあけて、ドロドロに煮詰まった感情を丁寧に掬いあげる。
ばかだなあ、ほんとうに。それだからみのりにかてないんだよ。
「 ……わかってるよ、そんなの 」
それを愛だと名付けたのは、中学3年生の秋。
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