201 2016-12-29 23:04:24 |
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(思えばいつだってそうだった。率直で、大胆で、スマートで、ドラマチック。それが彼が語る言葉の全てで、ちゃんと意味があったしそれだけで完結してしまうようなうっとりした響きがあった。潔いほど短絡的だと思わずにいられないこともあって、だから俺は混乱したし困惑したしものすごく怒った訳だけど。だけど、本場で育ったとかは関係無くて本当にそういう海外映画の吹替みたいな口調が似合う人だ、と思う。魔法みたいにすっと胸に溶け込んで、炭酸みたいにぱちぱち弾けてひろがる淡くて温かい気持ちに鼓動が応えるようにどきどきする。頰に触れる彼の指の感触にゆっくり瞬きして、素っ気なく離れていってしまう体温に、顔面を覆う色のついた粉やら液体やらの厚みさえもどかしい。正直、車に乗ってすぐ彼が言ったことはまだきちんと整理できていないしそれに対して返答をしたでもない。つまり片付けなきゃいけない宿題は残っている。けれど、後回しでいいじゃないか、一度大きな衝突を経験した二人には今更近道なんてないんだから、手を取り合ってゆっくり前進すればいい、神様の気まぐれで決められた俺らの運命が良いものであるように祈りながら。そんなふうに、思えたのに。彼らしくない誘い文句に一瞬、息を詰まらせる。それが不安やおよそ彼のイメージにはそぐわない謙虚さから出たものだとわかっていても。薄笑いで茫然と彼を見る。人は、心を守るために、場面に釣り合わなくとも笑ってしまうのだという。すぐ帰すって。そう言った。一緒にいなくてもいいってこと? 思わず重ねた手を離して膝の上でぎゅっと握り込む。化粧を落とさずに来た俺への気遣いだって分かってるのに、そんな言い方をされたことがどうしてもショックで、さっきは溢れなかった涙が、真逆の感情に上書きされてじわじわと視界を閉ざしていく。漸く「うん」と頷くとその拍子にぱた、と手の甲に小さな水溜りが出来た。そのまま俯いて「でも」と濡れた声で続ける。ああこういうところが面倒臭いんだと自覚するけど一度口を開いてしまえば止められない。「なんで? どうして帰れとか言うの? 好きって言ったのに? だって、化粧落としくらい自分で持ってるし、明日も明後日もオフなのに?」ぐすぐす鼻を鳴らしながら、彼の方が忙しいのかもと思い至るけど俺が言いたいのはそういうことじゃないから、俺は好きな人とならずっと一緒にいたいって思うから。あなたはそうじゃないの? と責めるような口調になってしまうのは、俺の中で彼の言った"好き"に納得出来ない矛盾が生じてしまうから。)
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