- ベイビー、ベイビー。 -

ありがとうございます。めちゃめちゃうれしいです……！
夜、電話で就職と引っ越し、受賞した写真のことをさらりと報告して大喧嘩になった翌朝の様子を書いてみました。箱の中身は半裸で眠りこけているところやキティに気を取られている渡瀬くんの盗撮写真です。任意で撮ったのはたぶん数枚……。
想像していたのと違う、またロルの相性が合わない場合は遠慮なく仰ってくださいね。


(どこまでも感情的で、自分自身ですらそんな性格を持て余しているあの男に、本当の意味で見限られるタイミングがあるとしたら今だと思った。電話口で泣きながら罵られたのが記憶に新しい。……何故って、昨晩の出来事だから。今回ばかりは「あの件」が吉報であると信じて疑わなかった俺が悪い。確実に言葉が足りていなかったから、多分、誰に言わせたって彼は泣いて良かった。最低な気分で朝を迎えて、お決まりのシャツとジーンズを身に纏う。外では裸眼が基本なのに、歯を磨いて髭をそった後眼鏡を掛けるルーティーンを無心で守ってしまったから、ちょっと冴えないそれを掛けたまま外へと飛び出した。四角いクラフト製の箱一つ抱えて、今日の撮影現場だと聞いていた小走り圏内の大規模倉庫へ向かう。息を切らしながら到着したと同時に、タイミング良く移動車から出てきた細身の男を見つけてその名を叫んだ。竜児。気の強そうな、それでいて無関心そうに涼しげな瞳がこちらをとらえたのを確認して一つ大きく息を吐く。そうして迷いなく肩を上げると、腕の力だけで唯一の手荷物を数メートル先へと投擲した。…ガコリ。スーパーモデル様の足元めがけて投げつけた四角い箱が、派手な音を立てて口を開く。意識しなければ気にならないくらいの柔い風が焦れったく吐き出させるその中身……大量のネガ、写真、フィルムがしゅるしゅると呑気に滑り転がっていく様をじっと見つめていた。驚いた顔して集まってきたスタッフ達が、近くに飛んできた写真を拾い上げる。彼らが息を吞むのを視界の端でとらえて、だけど俺は誰よりきみに拾い上げてほしいから、ただ静かにアスファルトを滑る宝物を見ていた。まだ何でもない二人の力関係なんて明白で、何もかも承知で俺は彼に跪いている。彼が抱えている寂しさみたいなものを承知で、そうしてあげていたのだ。長らく続いたそんな暗黙の了解を、その均衡を崩すしかないと思った俺の気持ちがきみにわかる？この上なく必死だけど過信でも何でもない、確かな自信に裏打ちされた強さが俺にはあるから、今は怒鳴って喚いてくれていい。でも、誰も知らないきみのヌードと時々キティを閉じ込めた俺の宝物を、今きみの目で見てほしいんだ、竜児。)