Sin 2016-12-25 17:13:20 |
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_某日、伊豆大島沖
「しっかりついて来い!ノロマは置いてくぞ。」
霧深く夜も明けぬ海上に複数の艦娘の姿があった。単縦陣の先頭を往くは、眼帯とグラマーな肢体が特徴の軽巡洋艦娘「天龍」である。彼女に率いられるは駆逐艦娘が四名、艦船としての前世に由来し、第六駆逐隊のくくりで呼ばれる者たちであった。
編制は、天龍に続き響、暁、電、雷の順である。
「Да。心配ないよ天龍。私はどこにも行かない。」
「むー……何で響が前なのよ……私がお姉さんなのに……。」
「ま、まぁまぁ……ともかく、何事もなく帰れそうで良かったのです!」
「本当ね!ふわ……帰ったら早く寝ましょ。疲れちゃった。」
資材確保を目的とした遠征はつつがなく終わり、残すは帰投を待つばかりである。
「明日は龍田に代わってもらうかな……『無理しちゃダメよ~?』って言ってたしな……。」
「ハラショー、流石にそっくりだね。」
「む……からかうなよ響。旗艦は俺だぞ。その態度は何だよ全く……。」
ちょっとした息抜きの物真似である。無論、この程度のからかいで本気で怒る天龍ではないが、それでも年長者として恥ずかしかったのか響を嗜める。
「電探に目を通しておけよな、全くよ……っ!言った側からこれだ!」
「はわわ!こっちでも捕捉したのです!」
「おおお、落ち着きなさい!一人前のレディーはう、狼狽えないのよ……!」
「あなたが一番狼狽えてるわよ暁ったら。……響、そっちは?」
「……少しまずいかもしれない。艦影が大きいみたいだ。そうだろう?天龍。」
「ああ、見えてる……馬鹿にしやがって、戦艦だ。」
接近するのは人型の深海棲艦、戦艦ル級二隻と……最新鋭艦、レ級が一隻である。両軍の戦力差は明白であった。
「全艦、歓迎委員会に付き合う必要はねえ。ズラかるぞ!俺から離れるな!」
敵に背を向け、全速力で退避行動に入る。ジグザグの回避運動を行う遠征艦隊と、その隙間に上がる水柱。未だ射程圏内。
「ダメ……!逃げられないの……?」
「弱音を吐くな暁!私たちは必ず大丈夫だ!」
「はわわ!……きゃあっ!」
金属のぶつかる鈍い音、閃光、爆音。電のいた場所。
「っ!電!?電!大丈夫なの!?返事をして!」
雷が悲鳴とともに接近すれば、海上に突っ伏していた電を抱き起こす。残り三名も反転し、二人を庇うように遠くの敵へ向き直る。
「っ!電ァ!へたばんなよな!」
「けほ……大丈夫……なのです……。でも、艤装が……!」
敵砲弾や破壊された艤装の破片が、電の体に少なからぬ傷を与えていた。命に別状は無いようだったが、艤装は最早電を浮かばせるのが精一杯であり、航行は望むべくもない。
「大丈夫よ!私たちで曳航すればいいわ!」
「そ、そうね!電の一人や二人くらい、レディーにお任せよ!」
「問題は、奴らから逃げ切れるか、だけれど……」
互いを元気づける姉妹たちをよそに、響は現実を見ていた。電を曳航すれば、今以上に逃げるのが難しくなる……だが、当然電を見捨てられるわけがない。
【続】
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