餡蜜 2016-12-11 21:12:39 |
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【時を越えて】
猫又のオイラが初めて愛したのは、人間である義孝という青年だ。
大好きなのに、永く共にいたいのに、妖怪と人間じゃァ生きる時間が違い過ぎる。
「俺は生まれ変わる。だから、また必ず巡り逢おう」
そう義孝は約束してくれた。
あれから、何年の月日が流れたか。
義孝は病で死に、独り残されたオイラは義孝との再会を夢見ながら猫の姿でのらりくらりと生きている。
オイラの首には義孝がくれた首輪ならぬ布製のバンダナ。
趣味の悪ィ唐草模様な上、年月が経ったせいで大分ボロボロになっちまったが、オイラの大切な宝物には変わりねェ。
これさえ巻いていれば義孝に気付いてもらえる。
そう信じていた。
だが現実はそう上手くいかねェ。
「ほら、にゃんこ。こっちにおいでー。」
間違える筈がねェ。
懐かしい声でオイラを呼ぶ青年は義孝の生まれ変わり。
オイラたちは再び巡り逢い、義孝は約束を果たした。
涙が出そうなほど嬉しかった。
…だけどな。
「どうしたんだ? おーい、にゃんこ。こっちこいよー。」
「……」
…オイラのこと忘れちまってたら、意味ねェだろ。
「にゃんこー? おーい。」
オイラはにゃんこって名前でも、おーいって名前でもねェ。
アンタが付けてくれた甘い甘い名前があるんだ。
悲しくて、あまりにも悲しくて、せっかく再開したというのにオイラはアンタから離れようとした。
「餡蜜(あんみつ)」
ぴたりと足を止める。
――餡蜜。
義孝がオイラに付けてくれた甘い名前。
振り返れば義孝の生まれ変わりは優しい眼差しをオイラに向けていた。
「喋らないのか? もしかして言葉忘れちゃった?」
「………」
「義孝だよ。今は彰って名前だけど。
――ただいま」
オイラの欲しかった言葉。
目頭が熱くなる。
覚えていてくれていた。
忘れないでいてくれたんだ。
オイラ、ずっと待ってたんだ。
アンタとの再会を夢見て、ずっとずっと待ってた。
アンタに伝えてェことが山ほどあるんだぞ?
「…おわっ!?」
猫から人間に姿を変えたオイラは、アンタに飛び付いた。
素っ裸なんて気にしねェ。
はやくアンタの体温を感じたかったんだ。
病弱で細かった身体はがっしりと逞しくなっていた。
アンタに一番に贈る言葉は…。
「――おかえり。」
広い空の下、アンタとまた出逢えたことに感謝するよ。
――――――End
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