餡蜜 2016-12-11 21:12:39 |
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【獣◆2】
※カニバリズム注意
※男side
村人たちが獣を捕らえたとの朗報を耳にした。生け捕りにしたようだ。直ぐに殺さないのはいたぶる為。それほどまでに仲間を食われた村人の恨みは激しかった。
その日の夜、僕は村長に呼び出され餌係り任命された。拘束しているとはいえ、相手は何人もの人間を殺してきた獣だ。餌を与えるのも命がけ。みな自分の命は惜しい。だから、身寄りがなく、病に蝕まれ長く生きられない僕はまさに適任だそうだ。
薄暗い狭い牢屋。そこに居たのは、まだあどけなさの残る少年だった。まさか獣が人間だとは想像すらしていなく驚いたが、刺し殺すような鋭い眼差しに、確かに少年の中に潜む獣を感じた。
はじめは怖かったが、日にちが経つにつれ怖さは薄れていった。少年に話しかけてみたが、言葉を知らないのか返事はない。僕は少年にアオと名付けた。アオは一方的な僕の会話にも静かに耳を傾けてくれた。もしかして、アオはそれほど危険な存在ではないんじゃないか。そう思えてきてすらいた。
僕が躓いて転びかけた時、初めてアオは笑ってくれた。その笑顔がとても綺麗で、村のどんな大人たちよりも純粋な綺麗さで。僕はアオに惹かれているのかもしれない。一度だけでもいいから、アオの口から僕の名前を聞きたいと思ってしまうんだ。
アオが死ぬなんて考えたくない。処分の日時が決まった日、僕は異議を申し立てた。だけど僕なんかの意見が通る筈もなく、反乱分子としてアオの処分が終わるまで小さな小屋に閉じ込められることになった。
一週間後、アオは殺される。嫌だ、嫌だよ。僕は人目を掻い潜りなんとか小屋から抜け出した。アオの元へ行き、衰弱したアオを連れ出そうとする。しかしその行動はアオ自身により止められた。突き立てられる牙。手が焼けるように熱い。
そうだ。アオは人間を食らうんだ。アオにとっては普通のこと。不思議と恐怖はなかった。それよりも、一瞬悲しそうな目をしたことが気にかかった。僕はアオを抱きしめる。
どうせ長くないこの身、死ぬなら君の血となり肉となりたい。痛みは既になくなっていた。今はただ、眠いだけ。これは単なる予想だけど、僕の死がきっかけで君は変わる気がする。アオ、遠くへ逃げて。遠く、村人の手が届かない場所へ。
そして、どうか僕のかわりに幸せであれ。
この囁きが君に届けばいいのに。
―――――――End
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