黒 2016-12-10 15:50:36 |
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( MUSIC:輝いた/シ.ギ )
▽ 人斬り×元幕府の犬
丁度6年前の今日、この桜の木の下で満月を共に見上げた。野郎は相変わらず紅い血を身体中に咲かして待ち合わせの場所へ遅れて来た。案外気に入っていたあの白い手ぬぐいは何処へやったのか、覚えてねェ。
〝 テメェの好きなようにしな、俺達ゃハナから何もねェんだ。 〟
この言葉に嘘偽りはねェ、奴にそう吐いたことにも後悔はねェ。触れ合ったことなんて無かったし、暴れ回りこの身が傷付くことを恐れない野郎二人が如何にかなる事なんざある訳がねェ。
如何にか成りたいなんて思ったことも無かったが、このままの微温湯が続くと信じて疑わなかった俺もどうかしてた。
彼奴が江戸の町から姿を消してから5年が経とうとしていたのだ。
これだから人斬りは気に喰わねェんだ。自分勝手で何かにつけて格好つけたがる。ロクな人間じゃねェ…そう、ロクな人間じゃねェんだ、俺は。だが、これ以外の器用な生き方なんざ───。
〝 いいかァ?人の人生ってのは殆んどが遅咲きなんだよ。大概の馬鹿野郎は無くしてから気付く、だからオメェも気付いた頃には遅ェなんて言ってねェで気付いたらまず走れよ。遅くなんてねェ、しょうもなくて良いじゃねェか。大外れ引いちまった時には俺が笑ってやるよ、馬鹿野郎。 〟
フラッシュバック、という外来語はこういう使い方で合っているのか、俺には全く分からなかった。ただ、桜の木の下には誇らしげに地面へ突き刺さった血生臭ェ刀の柄に紅が染み付いた白い手ぬぐいが結んであった。
知らねェ、知らねェよ。俺ァもう幕府の犬でも何でもねェし、テメェのことなんざもう忘れた。遅咲きなんて大層なものでもねェんだ。あんな安っぽい言葉、絶対信じねェぞ。俺の足が勝手に動くもんだから、どうしようもねェだけだ。
だから、だから、大笑いしてくれよ───。
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