YUKI 2016-11-19 22:11:18 |
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静かに茅人の話を聞いていた汐は、いったい何を思っただろう。
過去に捕らわれたままの茅人に呆れただろうか。
それとも今は亡き人と比べられて、憤りを覚えたかもしれない。
だが茅人の予想は、どちらも外れていた。
「私がその女性なら、早く忘れて幸せになってほしいと思う。でも、私が茅人君と同じ立場なら、きっと忘れられないわ。」
汐は微かな物音をたて、優しく凛とした声で話す。
さりげなく隣を見ると、汐は席を離れようとしていた。
「…だから、いつか貴方の、茅人君の過去の痛みが和らいだら、その時、誰かを好きになったら、その時は幸せになってね」
濃い暗闇の中、汐の表情はよく分からない。
それでも、汐が泣いているのは分かった。
なぜなら汐の声は、涙ぐんで途切れ途切れの切ない声で、それでも暖かい声だったから。
今すぐにでも、その手を握ってやりたいと茅人は思うが、それはただ汐を傷つける、無責任な行いと言えるだろう。
茅人は汐に何も言えず、遠ざかる気配を見送った。
茅人には、もう何も出来る事はないのだから。
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