YUKI 2016-11-19 22:11:18 |
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「…僕は、汐と恋愛は出来ません。本気でお付き合いする事は、無理です」
一つ、一つの言葉は汐を傷つけているのだろう。
それを分かっていながら言うのは、茅人にも苦痛なものだった。
静かな室内に流れる沈黙は、酷く長く感じる。
「そう言われると思ってた。せめて、理由を聞いても良いかしら」
一分も経たずに返ってきた言葉に、泣いている様子はなかった。
それでも震えて聞こえる汐の声は、悲しみをこらえているのだろう。
そんな汐を慰められない茅人に出来るのは、過去の、大切な人を失った日の話をしなくてはならない。
「別に、汐さんに原因がある訳じゃありません。僕自身、今はまだ過去が吹っ切れていないだけで」
茅人の言葉に汐は何も言わないで続きを待つ。
そんな優しさに痛みを覚えながら、茅人は続ける。
「高三の時、好きな女性がいたんです。その人は僕の家庭教師の先生で、二つ年上の穏やかな人でした。僕は彼女を好きだと気づいて、すぐ告白しました。でも彼女に『今は生徒と先生だから気持ちに答えられないよ。でも、もし高校を卒業する日まで気持ちが変わらなかったら、その時はちゃんと返事をさせて』と言われてしまい、僕は卒業の日を待ったんです」
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