焼きソーば 2016-10-22 20:11:57 ID:f9e4b1cb2 |
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【第二話 From メルさん宅にて】
なんかさっきからこの女の人にずっとジロジロと見られている。観察されているようでなんだか気味が悪い。
「あ……アスラさん、こんにちは……えっと、この子は……」
おばさん改めメルさんが女の人改めアスラさんにどうにか説明しようとする。
「(どうしたんだろうこの人。税務官みたいな? 僕がいると……いやいかん、これからの生活は女子でなんだから一人称は「私」にしないとまずい)」
するとアスラさんは眼鏡を左手の中指で素早く上げると、今度は右の人差し指を勢い良く私に突き立てた。
「只者ではない魔力! そしてこの容姿! 私の魔法学園に歓迎しようっ!」
「ま、魔法学園にっ!?」
「なにそれ?」
その言葉に反応したのはメルさん。続いて私。メルさんはめ目をまん丸に大きく見開いてアスラさんの方を見ている。
ちょっと目力凄いんですけど……怖いんですけど。
「魔法学園って、そんなにすごいものなんですか?」
ちょっとだけ気になった私がそう言うと、メルさんは息を荒げると早口になって喋り始めた。
「凄いなんてもんじゃないわよ! 魔法学園には各国の要人の子供や貴族の子供達、それに【神の加護】を持つものがそこらかしこにいるんだから! それに嫌でも能力が高くなるし、魔法学園卒業ってだけでかなり重要視されるわ。それに国としての資格を得られるしあとは__________」
「そうそう。貴族とのコミュニケーションもとれるしね」
長くなりそうなメルさんの言葉を遮ってアスラさんも言う。
メルさんってあれだよね。関西人の弾丸トークみたく話すよね……
アスラさんが若干補足をしてくれたんだけど、簡単にいえば魔法学園とは『将来王宮の騎士や高官を目指す者などを育成する教育機関』らしい。事実、この国の有名人は学園出身であることが多いとか。
魔法学園は案外悪くないかもしれない。お金もかからず寮もついているらしいし。
「アスラさんは学園の学園長なのよ。ま、まぁとりあえず中にどうぞ。貴女もね」
あ、学園長先生でしたかぁ……。こんな人が学園長で大丈夫なのかちょっと心配だけど。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私とアスラさんはメルさんに連れられて、木製のテーブルセットに座る。
しばらくするとお茶のようなものをメルさんが持ってくると、話が始まった。
あ、このお茶おいしい。
「それで……あなたのお名前と親、それに年齢を教えてもらってもいい?」
「あぁ……はい。ぼ……私の名前は【カリン・イース】です。年齢は……」
年齢は。
…………私何歳なんだろう。
やばいやばい、早く答えないと……ほらめっちゃ不審に思われてるよ急げぇぇぇぇ。
少なくともこの身長で中学生はない。
おぉぉ、中世ヨーロッパ当たりを参考にするんだ。あっちの平均成人年齢は18or16っ!
そこから考えて今の私は……
「じ、16歳です」
「16歳……魔法学園入学生基準と同じね。分かったわ。あと……両親は?」
「親は……」
うぉぉぉぁおぁぁぁぁぁっ!?
またしてもピンチ、大ピンチっっっっ!!
なんて言えばいいんだ!? ヘルプミーっ
こ、こうなったら!
「なにも……なにも覚えていないんですっ!」
最終手段、記憶喪失ヒロイン役を演じるんじゃぁぁぁっ!
普通主人公がやることじゃないと思うけどそこは割愛。
「「何も覚えていないっ!?」」
メルさんとアスラさんの言葉が重なる。
あながち間違いではないと思うんだけど……
「そ、そうなんです……自分の名前はこのブレスレットに……て、あれ?」
気づけばブレスレッドが消えている。まさかメルさんが取ったんじゃないと思うしなぁ……
まぁ、そんな大事なものではなさそうだしいっか。
「そうなのね……。メルさん、この子はどこでみつけたの?」
アスラさんが考え込むようにして首を傾げそう言った。
「そこで倒れてたのよ。私もびっくりして。何処かの王侯貴族様かと思ってたら急に旅人って言い始めたから……」
「ってことは、記憶を失っているのが本当だったら『実はどこかの貴族様』かもしれない……と」
「この服装を見る限り、身分は高そうよね……どう思う?」
「うーん……」
なんか二人の会話が変な方向に行っちゃってるなぁ……
私は別にそんな身分じゃないのに。
するとアスラさんがこっちを見つめてきた。
「まぁ、王国魔法学園理事長アスラとしてはここで見放すわけにもねぇ。今年は若干生徒数が少なかったし、別に学園で保護することは迷惑じゃないのよ。ただ、うちの学校はいろんなところから身分の高い人たちが集まるから、その分イジメとかも激しいのよね。カリンちゃんがそれに耐えられるかどうか……」
いかに理事長といっても貴族王族に意見できるわけではない。
イジメはあるぞ……ということか。
アスラさんが私の方をじっと見つめる。
「カリンちゃんが望むなら、私はここでの生活をできるだけサポートするけど、今のあなたにはかなりの成長の余地があるわ。才能を伸ばしたいなら、学園へ是非ともきて欲しいの」
「私の意見……ですか」
メルさんに迷惑をかけるわけにもいかないし、どっちにしろこの世界で生きていく術は身につけなければいかない。
それに伸ばせる才能があるなら伸ばしたい。それが少しでも元の世界へ帰る道へと繋がるならば尚更だ。
そこまで考えた私はきっぱりと断言した。
「行きます」
◆◇◆◇◆◇◆◇
私はこ日、明後日に開かれる【アスラ魔法学園入学式】に正式に出ることとなった。
それからは少し時間があるとのことで、近くを散歩していたりして時間を消費したり農作業を手伝ってみたりしていた。
その後はメルさんに見送られ、アスラさんが乗ってきた幌馬車に乗って【王都】へ向かうことに。
うん、まぁ今のところ異世界暮らしに問題なし。とりあえずあとは地道にもとの世界への帰還方法を探すのみ。
さぁーて、頑張りますか!
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