正義 2016-10-19 22:10:05 |
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『 出会う 』 5/6
次の日、少し早めに学校へ登校して教室へ向かうと、あの不思議な男子生徒が教室の窓から外を眺めていた。
なんとなく話しかけたい気分になって彼に近づいていく。
「何してるの?」
何の変哲もない話しかけ方をすれば、まるで話しかけられるのを予想していたかのように目線をこっちに向けて落ち着いた口調で口を動かす。
「…何も。」
中性的な声色の彼は、感情の無い人形のように無表情で答えた。
不気味に思えるその姿は、私には不思議と懐かしい感情を湧き上がらせた。
それどころか、私は彼のことをもっと知りたいとさえ思ったのだ。
「あなたの名前は?」
何か話をしようと思ったのだが、当然ながらコミュ力の足りない私はなぜか名前を聞いていた。
普通は自分から名乗った方が良いのだろうが、その時はそんな考えも思いつかずにいた。
「……悠太。」
ぼそり、と呟かれた言葉をぎりぎり耳にする。
悠太。確かにそう言った。
ゆ、う、た。とても彼に似合うと思った。
「そう、悠太くん。私は有紗、よろしくね」
なんとか自分も名乗ると昨日陽斗と交わしたように挨拶をする。
「…うん。」
相槌のように出てきたその言葉になんと返事をしたらいいのか分からず、暫しの沈黙が訪れる。
「…え、っと…それじゃあ私は教室に戻るね、じゃ。」
会話の続け方がわからなかった私は、一方的にそう告げればそそくさと逃げるようにしてその場を離れた。
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