赤傘の名無し 2016-10-18 23:03:33 |
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「…い、いやいやいやいや…それはないっ。私の家の近所にこんな鬱蒼とした森ないし、そもそも公園抜けてすぐ森って…そんな地形じゃなかったし。」
手を振り首を振り、誰に対するでもなく、強いて言うならば自分自身に対して強く否定すると、前後の記憶を思い出そうと必死で考える。しかし、それ以上はどう頑張っても思い出せなかった。
しばらく悩んだ末、代わりと言ってはなんだが、動揺のあまりすっかり存在を忘れ去っていた我が相棒の存在を思い出す。
「…そうだ、スマホ!スマホで地図検索すればいいじゃん!」
そう、今や現代社会と切っても切れぬほどの縁として日常で使われるスマートフォン。もちろん、今ドキ女子高生である私も持っている。依存症というほどでもないが、それでも日々困った時には助けてもらっている便利アイテムだ。ネットにも繋げられるというところがその利便さの最たるところだろう。
「はあ、良かった。とりあえずこれで……」
私は慣れた手付きで片手でスマホの電源ボタンを押し、ロック画面を解除する。
帰れると思った。こいつ(スマホ)さえいれば万事解決すると思ってたんだ。
だが……おお、我が相棒(スマホ)よ。どうしてお前の画面には「圏外」だなんて表示されてるんだい?
そう、見慣れた私のスマホのホーム画面の上方には近頃めっきりお目にかかることが少なくなった「圏外」という文字が浮かんでいたのである。
「充電…は、問題ない。じゃあ、ここが電波も届かないほどの本当の山奥だってこと?
……まじで何で私こんなとこにいんの…?」
相変わらず公園から出た直後の記憶が曖昧な私にとって、この状況はいよいよ謎が深まるばかりである。
便利で頼もしいはずの賢い電話、スマートフォンも電波という壁に阻まれてしまっては、戦力外通告で今や薄べったい時計がわりにしかならない。
時間を確認するともうすぐ18時になろうとしている。
いくら今が5月で日が長くなってきた頃とはいえ、そろそろ日も暮れてしまう。
あいにく都会育ちであまり経験はないのだが、こんな電灯もない森の中はさぞかし暗くなることだろう。
ここがどこだかは分からないが、急いでここを出た方が良いことは明白だ。
「方角は…分かんない。けど、歩いてたらそのうちどこか知ってるところに出るかもしんないし。そしたらスマホの電波も入るかもだし。……とりあえず歩こう。」
一つ大きく息を吸うと、私は不安な気持ちを抑えて道なき道を一歩踏み出したのだった。
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