北風 2016-09-11 16:47:48 |
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その日の夜。
私は空田さんの運転する車に揺られながら、流れ行く景色を眺めていた。
ごく普通の五人乗りの乗用車。
助手席には鴫羽さんで、その後ろの座席には私。
私の隣は昶くんが座っている。
もう一席空いてはいるのだが、そこには誰も座っていない。
ヒオちゃんは留守番だ。
「モロハ、とりあえず二丁目に向かって。あそこの奴らなら顔が利くでしょ」
「分かってるよ……しっかし安河川につながりのある奴か~……ピンと来ねぇなぁ……」
「大丈夫。あの辺の店に五十山の準構成員が居るから。旅さんに仲介してもらえるよう頼んどくね」
「おお、そうなのか。頼む」
昶くんと空田さんの会話に耳を傾けてみるものの、何を話しているのかよく分からない。
口を挿める空気でも無いので、私はまた窓の外に意識を戻す。
気づけば景色は都心のそれへと移り変わり、煌びやかなネオンが目を刺激してきた。
カラオケ、居酒屋、風俗、バー、その他諸々の。
…………。
「し、鴫羽さん……これってどこに向かってるんですかね……」
私は前の席に座る鴫羽さんに小声で問いかけた。
彼女は爽やかな笑顔でこう返した。
「さあ? それは僕にも分からない。だが治安が良い所では無いのは確かだ」
「…………」
この人はどうしてこう、自信たっぷりに私を不安にする事ばっか言うんだろう……。
変な汗をかいてきた。
そもそも何で昶くんは作戦内容を教えてくれなかったんだ……。
『蛍ちゃんが知っててもどうしようもない事だから』と言っていたが、それでも知っていた方が幾分か安心するだろう。
と、体が前に引っ張られる感覚と共に車が停止した。
「オラ、着いたぞ。さっさと降りろ」
空田さんが肩越しに振り返りながら言う。
あああ……いよいよだ……。
深呼吸をして気持ちを落ち着けようとするものの、どうしても不安が勝ってしまう。
私は高鳴る心臓の鼓動を感じながら車の扉に手を掛けた。
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