北風 2016-09-11 16:47:48 |
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「んん……ん」
気持ちの良い感覚が全身を包んでいる。
体がふわふわ浮いているような感じだ。
「ん……」
ぼーっとしていた頭が、徐々にはっきりしてくる。
……あ、私、寝てるのか……。
今、何時だろう?
出来ればもうちょっと寝てたいなぁ……。
そんな事を考えながら、私は薄目を開ける。
まず視界に飛び込んできたのは、人の顔だった。
「…………」
ていうか、人の顔以外見えなかった。
それくらい至近距離に、顔があったのだ。
え?夜這い?ってくらいの距離だった。
だが、私はすぐその可能を脳内から排除する。
その顔は、どうみても女性のものだったからだ。
サラサラの黒髪に、端正な、どこか色っぽい顔立ち。
間違いなく美人の分類に属する顔だろう。
「…………」
……綺麗だなー。
でもこの人、誰だ?
何でこんな見知らぬ美人が私の元に?
………………。
「……あ、夢か」
そういう結論に達した。
恐らく私はまだ眠っていて、ここは夢の中なのだろう。
なるほどそれなら仕方ないと思い私が目を閉じると、バチン!という音と共に左頬に衝撃が走った。
「おヴッ……!?」
思わず女子力の低い声が漏れる。
一気に目が覚めた私は、目を見開き眼前の女性を見つめた。
夢じゃなかった。
「お、やっと起きたかね。御早う」
どうやら私のほっぺたを叩いたのはこの女性らしく、相変わらずの至近距離でそんな挨拶をかましてきた。
「…………」
「御早う」
「あ……あなたは……」
「御早う!」
「あ、お、おはようございます!」
慌ててそう返すと、女性は満足したようで「ふむ、宜しい」と言って顔を私から遠ざけた。
近くからだと分からなかったが、女性は長身な上に長い髪をポニーテールにしていて、今は綺麗というより格好いい、お侍さんのような印象を受ける。
私が見惚れ直していると、女性は
「そろそろ朝食の時間だ。早く来たまえ」
と切り上げてその場を去ろうとした。
──え?朝食?なんの事?
来たまえってどこに?ダイニングとか?
いや、てかそもそもここどこだ?見たトコ和室っぽいけど……。
そしてこの人も誰なの?
「あ、あの……!?」
聞きたい事が多すぎて、気付けば私は女性を呼び止めていた。
「?何だね?」
「あ……えと……」
女性は立ち止まってくれたが、言いたい事が纏まらず、私は口ごもってしまう。
すると女性は「ああそうか」と何か納得したらしく、勝手に喋り始めた。
「初対面だと云うのに名乗りもせず失礼であったな。僕は鴫羽砌華。鴫羽荘の管理人さ」
…………初対面の相手に名乗らないのは失礼で、初対面の相手をビンタで起こすのは失礼じゃないのか……。
って、まあそれはともかく。
名乗ってもらったお陰で思い出した。
ここは心霊スポット死際荘──――もとい、変人が住まう家、鴫羽荘だ。
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