北風 2016-09-11 16:47:48 |
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数分後。
「ふぅ……」
15畳くらいのリビング。
やっと家に上げて貰った私は、堂々とそこのソファーでくつろでいた。
ソファーを端から端まで占領して、仰向けに寝転がっていた。
…………うん、分かってる。
流石に図々しい行いだと。
でも思っていたより私は疲れていたらしく、一度ソファーに座ったら立ち上がれなくなってしまったのだ。
それにこのソファー、すっごいフカフカ。
多分結構良い値段するものだろう。
――――でも、他の家具はそうでもなさそうだな……ソファーにこだわりでもあるのか?
私は横になったまま首だけ動かして部屋中を見渡し、置いてある机や椅子を値踏みする。
他人ん家来といて何やってんだ、私。
「あ、そうだ! ヒオ、またコレ置きっ放しにしてたでしょ~? もう押入れに入らないからといって、玄関はダメだよ~」
ソファーの正面に置かれた机の前に、昶くんとヒオちゃんが座っている。
どうやら先程の骨格標本の話をしているようだ。
そう言えばあれ何だったんだろ?
昶くんの口ぶりからしてヒオちゃんの私物っぽいけど、ヒオちゃんみたいな子が何であんなものを……。
何となく気になったので、私は二人のいる方向に向けて寝返りを打ち、涅槃に入る際の仏様のような体勢になった。
図々しいの極みだな、このスタイル。
そう思いながらヒオちゃんに目をやると、ヒオちゃんは何故か真っ赤になっていた。
「あ、あ、ううぅ……か、かたづけるの忘れてたぁ……」
そう言って両手で顔を覆う。
…………?
「え? 何? 何でヒオちゃん恥ずかしがってるの?」
骨格標本のどこに恥ずかしい要素が……と思い、声をかけてみる。
すると、昶くんが愉快そうにこちらを見た。
「いや~、それはねぇ……って蛍ちゃん我が家のような振る舞いだねぇ」
「ご、ごめん……疲れてたから……」
「うん、申し訳なさそうにしつつも体勢は変えないんだね。蛍ちゃんのそういう所、ボクは好きだよ」
昶くんはくっくと笑いながら、「ああ、そうそう。ヒオの事だったっけ」と、話を戻した。
依然ヒオちゃんは恥ずかしそうに顔を抑えて俯いている。
「ぅぅ……いわないでぇ……」
と、弱々しい声が聞こえてくるが、昶くんはガン無視で話を続ける。
「んーとね、ヒオは……何ていったら良いのかな~? ネクロフィリアって……分かる?」
?
私はぶんぶんと顔を左右に振る。
涅槃スタイルだといささか振りにくい。
「う~ん、まあそうだよねぇ……蛍ちゃんに分かるように言ったら~……死体好き?」
「っはぁ!?」
私は咳き込むように聞き返し、思わずソファーから飛び起きた。
「し……死!?」
そして、楽しそうに笑う昶くんと、「ああーっ! はずかしいーっ!」と叫んでいるヒオちゃんを交互に見る。
「いやいやいやいや……なんかの冗談だよね?」
引きつった笑みを浮かべ、私はヒオちゃんにそう問いかけた。
するとヒオちゃんは顔から手を外し、涙を浮かべた愛くるしい瞳で私を見上げた。
「ううう……死体ずきとかじゃ、ないもん……。ただちょっとだけ……死んだひとの体とか……骨とかにこーふん、しちゃって……集めたくなっちゃうだけ、だもん……」
いや、それ結構ガチめにヤバイ性癖。
え、てか、嘘、こんな可憐な子が……?
私は呆然としていたが、ハッとしてソファーから転がり落ち、立ち上がって昶くんから距離を取った。
「あ、昶くん……? そ、そそそそれ、もしかして……」
そして、震える指で昶くんが持っている骨格標本を指差す。
「ん? ああ、コレ?」
昶くんは、骨格標本を顔の横に掲げ、にこりと笑った。
こんな怖い笑顔始めて見たわ。
「大丈夫だよぉ、コレはただの模型。ダッ●ワイフみたいなモンだよ~」
「そ、そうかぁ……良かった……」
骨格標本にその例えはどうかと思うし、模型だからといって良い分けではないと思うが、私はとりあえず安心する。
まあ常識的に考えてそうだよね……。
いくら死体が好きでも、流石に本物は無いよね……。
「うん。『これは』模型だよ」
「え」
その一言に私は固まる。
『これは』にアクセントを置くって事は……。
「そ、『それ以外』も……あるって事?……そして……それは模型じゃないって……事?」
「うん、そゆこと」
「………………」
絶句。
余りの事に私はしばらく黙って立ち尽くしていたが、数秒後、ぺたりとその場に座り込んだ。
「無理無理無理無理……私、この二人に匿われるなんて……絶対無理!」
失礼な発言だと思うが、そんな言葉が口から溢れてくる。
どうやら私は余裕を無くすと失礼な人間になるらしいな……。
「ん? あれ? 話してなかったっけ?」
昶くんがそんな私を見て、小首を傾げる。
「ここに住んでるの、ボクとヒオだけじゃないよー? 今はちょっと皆居ないけどね」
「え!?」
そ、そうなのか……まあこんな子供が二人きりでこんな大きい家を管理しているとは考えづらいしね……。
「じゃ、じゃあ、他にもっとまともな住人も居るって――」
「いやいやー。そんなワケ無いよー」
「へ」
無邪気な笑顔で私の希望を断ち切る昶くん。
え、嘘。
ここにまともな人は居ないのか……?
脳が現実を処理しきれずに、目の前がだんだん暗くなっていく。
「鴫羽荘の中じゃ、ヒオはまだ常識的な方だよー。でもまあ、皆良い人達ばっかだから……蛍ちゃん?」
私は昶くんの言葉を最後まで聞かず、床に倒れこんでいた。
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