北風 2016-09-11 16:47:48 |
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「いやいやいやいや!? 君さっき何見て笑ってたんだっけ!? ここに入ることを全力で拒否する私の姿だよね!?」
「あはははっ、大丈夫だよ。鴫羽荘は蛍ちゃんが思ってるような所じゃないからさぁ」
そう言って私を無理やり引きずり、玄関に向かう少年。
「う、ぅぉおおお…………!」
私は帰宅を嫌がる飼い犬の様にその場にしゃがみ込み抵抗するも、少年はびくともしない。
それどころかにこにこと微笑みを湛えてさえいる。
「な、なんで……」
力には結構自信があるのに。
こんな細身の少年に負けるなんて……。
「もー、蛍ちゃん。いい加減腹を決めなよ。『匿って』って言ったのは蛍ちゃんなんだよ?」
「うっ……」
確かにそうだ。
私をここに連れてきたのはこの少年だが、その要因を作ったのは私だ。
ここに来て私がそれを拒むのは身勝手な話だろう。
それに匿ってほしいのも事実だし……。
「わ……分かった……」
私はそう言って震える足でふらふらと立ち上がった。
「お。そうそうその意気だよー」
少年は満足そうに笑うとポケットから鍵を取り出し、玄関扉の鍵穴に差し込んだ。
「……!」
てっきり鴫羽荘は廃墟だと思っていたが、鍵がかかっているという事は何かに使用している建物なのだろう。
私はその事に衝撃を受けたが、同時に少なからず安堵も覚えた。
心霊スポットの廃墟に一人で隠れてろなんて言われたらどうしようかと思ってた…………。
鍵穴からカチャリという音が聞こえた。
どうやら鍵が開いたらしい。
「さ、入るよー。蛍ちゃん、覚悟はいーい?」
「あ、う、うん。や、ちょっと待って……心の準備がまd」
「レッツゴー♪」
少年は私の言葉を最後まで聞かずに、元気良く扉を開けた。
最高の笑顔だった。
「覚悟はいーい?」とか何で聞いたの。
と、文句を言いたい衝動に駆られたが、残念ながらそれは叶わなかった。
勢いよく開け放たれた玄関の扉。
その扉に恐らく立て掛けてあったのだろう、何か。
170cm程の細長い何かが、扉を開けたことによってこちら側に倒れてきたからだ。
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