北風 2016-09-11 16:47:48 |
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この町で最も有名な心霊スポット…………。
通称『死際荘』。
一応私の住む町にあるが、狭い路地や建物の裏手を通らないと辿り着けないような入り組んだ場所にある、一軒の住宅だ。
かなり大きな家だが、いつから建っているのかは分からず、建てた目的も誰が建てたのかも不明だ。
そんな不明だらけの怪しい家だが、勿論『死際荘』だなんて物騒な建物名ではない。
実際の名前は『鴫羽荘』。
鴫の羽、と書いて『しぎわ』だ。
うん。
良いネーミングだと思う。
何なら住みたいくらいのかっこいい名前だ。
……あんな噂が無ければ。
――――鴫羽荘に入ったが最後、二度と出て来れないんだと。
――――鴫羽荘には今まで入って来てしまった者たちの大量の死体があるらしいよ。
――――一回、入っても運良く出て来れた子がいるんだけど、出てきた後すぐに狂い死んじゃったんだって。
――――それもう『鴫羽荘』じゃなくて『死際荘』じゃねぇか。
こんな悪趣味な語呂合わせから生まれた心霊スポット、『死際荘』。
お化けの類が大の苦手な私にとって、死んでも近付きたくない場所だ。
「どうしたのさ本当に~?」
「あ、や、何でもないよ!? と、とにかく私の事はもう気にしなくて良いから!」
恐怖の余り、思わず声が上擦る。
「じゃ、じゃあ私もう行くから! だから離して!」
私の慌てっぷりにきょとんとした表情を見せていた少年だったが、ふと何か閃いた様な顔になり、ニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべた。
「あ~成程……蛍ちゃんホラーとか苦手なタチか……」
「な、なんでその事を…………」
綺麗に図星を突かれた為、ギクリと身を縮こませる私。
その分かりやすい反応が可笑しかったらしく、少年はけらけらと笑い出した。
「あははー! 君ってやっぱ変な子だねぇ。ホント飽きないよ」
「そ、そりゃどうも……」
出会って数分で飽きるも何も無いと思うのだが……。
というか、『変な子』って。
それこそ出会って数分の相手に笑いながら言うにはデリカシーが足りない言葉なんじゃないのか?
「ああそうそう。で、何で蛍ちゃんがホラー苦手だってボクが分かったか、だっけ?」
少年は愉快そうに私の質問に答える。
「そんな難しい話じゃないよ。どうせ『死際荘』の噂が怖いんでしょ? この路地、鴫羽荘に行く時以外通らないトコだからね」
「あ、うん、まあ……そうなんだけどさぁ…………」
改めて他人に言い当てられると恥ずかしいな……。
「でも意外だなぁ。あんな体質持ってる蛍ちゃんの事だから、『幽霊より生きてる人間のほうが怖い』とか言うモンだと思ってたよ」
「そ、そんな事無いよ! 何かもう生きてる人間の怖さには慣れちゃったし……逆に得体の知れない物の方が不気味だよ……」
て言うか、この子私の体質の事も知ってるの!?
本当に何者なんだろう……。
気になるけど聞くタイミング逃しちゃったしなぁ……。
「あはははははは、確かにそうだねぇ~。納得納得ぅ」
笑いながらぱんぱんと手を叩いている少年。
先程まではこの少年に笑われることに腹を立てていたものだが、ここまで笑い上戸だといっそ感心する。
「はははは、はは、あー……ふぅ……………でもねぇ、蛍ちゃん」
少年は一通り笑うと、急に声のトーンを落として話し始めた。
「蛍ちゃんは犯罪者とかよりもお化けの方が怖いかもしれないけど、ボクはそうは思わないんだ」
……だから何なのさ…………。
うう……どうせ自分は怖くないからって私をバカにするんでしょ……。
「むぅ……君はそうだとしても私はそうじゃ――」
「いーや、違うね」
少年は私に最後まで反論させず、強引に遮った。
「蛍ちゃんはまだ、生きている人間の本当の怖さを知らないからそんな事言えるんだよ」
「は?」
この子は何を言っているのだろう?
正直、私ほど生きている人間の怖さを知っている人間はこの世に居ないと思うのだが……。
「ふふふー。ま、蛍ちゃんもそんな事言えなくなるよ――――鴫羽荘に入っちゃったらね」
「え?」
「ほら、着いたよ」
「あ!?」
間抜けな声をあげて目の前を見る。
いつの間にか私は古ぼけた日本家屋の前に連れてこられていた。
全体に蔓植物が巻き付き、窓という窓が外側から板で塞いであるその建物は、『いかにも幽霊屋敷!』な全貌だった。
入り口付近の塀に、掠れて読みにくくなってはいるが『鴫羽荘』と書かれた表札が
貼ってあるのが分かる。
「えああああああああああ!! 嘘、嘘でしょ!? わた、私、こんな無理――か、帰る! もう帰るからぁ!! ……ああああああでもヤ●ザに追われるのも嫌だあああ!」
「あはははははははははははははははは!!」
テンパり過ぎてぎゃあぎゃあ喚く私。
を指差して大笑する少年。
良い性格してるなぁ。
「あはははは、くくっ……ふはっ……くはははははははは!! く、苦しい…………」
何苦しくなってんだ。
どんだけツボなんだよ。
2分後。
「ははは、ひー……ごめんごめん」
笑い過ぎて目尻に浮かんだ涙を拭い、少年はやっと笑いから立ち直った。
いや笑いから立ち直るって何だ。
「あー、笑った笑った……。じゃ、行こうか蛍ちゃん」
「え? 行くって……どこに?」
「ん? 勿論この中だよ」
少年は満面の笑みを浮かべ、くいっと親指で鴫羽荘の入り口を指した。
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