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No.1
by 雪。 2016-09-03 19:55:19
銃で撃たれた傷は、もう痛まなかった。時々感じる鈍痛はただの錯覚で、右胸の下辺りには薄いカサブタの感触が残っているだけだ。
橘大和(たちばな やまと)が榊原浩介(さかきばら こうすけ)に銃を向けたのは、一ヶ月前の十二月だった。
一年前に出会った二人に何があったのか、真実を知るのは当人達のみだ。
今、榊原は、かつて暮らしていた安アパートの前に立っている。目を閉じれば、橘と過ごした日々が甦ってくる。そして、同時に胸のカサブタが痛んだような気がして、咄嗟に服を握り締めた。