八咫鴉 2016-08-27 17:34:53 |
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(知りたければ自分の目で確かめろと、笑いながら目の前の男は言う。教えてくれと頼んだはずなのに見ろとは一体どういう意味だろうか。眉を上げて言葉を紡ごうとした時、ざわりと外から嫌な気を感じ、言葉を紡ごうとした口を止め。嫌な気といっても、どうなものだと聞かれたら答えることはできない。ただ、自分にとっては良くないものには違いなく、肌に鳥肌を立たせ続けるほどの恐ろしい存在だということは確かだ。引き戸を開けられた瞬間に見えた、黒い影のようなもの。恐怖か、なにかか、口を開くも声が思うように出せずひゅ、という息が喉からこぼれたぐらい。自分を閉じ込めるように立ちふさがる壁のようなものをすんなりとすり抜けていく男は、その怪物をあっという間に、喰らうように体を吸い込む。その光景を瞬くのも忘れ、目を見開いて見て。改めてその男は――いや、それは自分とは違う次元のものなのだと確認させられたような気がした。しかし、今の光景を見たと言うにも関わらず男からは先ほどの影と同じような恐ろしさは感じない。会話の中で見え隠れしていた男のあきらめを含んだ表情が頭から離れないせいなのか、月を背負う後ろ姿がどこか切なげに映る。虫の音で遮られた言葉、それがわからないほど己も馬鹿ではない。もし、ここからできることが出来たとして村へはとどまらず、都会へと戻ってしまえば、この村は、この男はどうなってしまうのだろうか。一気に現実を突きつけられて、未だ夢物語のような第3の選択肢が霞んで見えた。扉が閉められ突然訪れる静寂。この村の状況を見せられて、先ほど語った言葉も現実になるか難しいこの状況下、未だ思うのは今まで過ごしてきた自由の時間で。自分もかなり、自分勝手な人間なのだと自嘲気味な笑みを浮かべ、「なら、俺がまずせなきゃあかんのは、昔の記憶を引っ張り出すことやな」とりあえず、今できるのはそれだけ。自由になる前に、さっきの影のようなもの喰らわれてしまうのは嫌だ、ならばそれに抵抗するために力をつけなくてはいけない。厳しかった祖母のことだ。幼い頃に聞かされた話の中に、きっと巫女に近づけるヒントがあるのだろう。「とりあえず…、今日は寝るわ。今日はいろんなことがいっぺんに起きすぎて疲れたわ。睡眠不足じゃ、戦はできぬ、…なーんてな」先ほどの堅い雰囲気を崩すかのように、何気ない冗談を述べてけらりと軽快な笑みを。どこでも使って良いとのことなので、その言葉の通りに使わせてもらおうとは思うが、布団がなければ寝ることもできない。というよりもこんな場所にそんなものがあるのだろうか。きょろり、と辺りを見渡し)
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