八咫鴉 2016-08-27 17:34:53 |
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(どこからか虫の声がする、夏が過ぎたか秋を感じさせる寒い風が吹く。彼の言葉も、意地悪く笑ってはいるものの冷え切っているように感じた。巫女のことも、目の前の男のことさえ、詳しく覚えていない。それは、幼い頃の祖母の教育を怠ったせいでもあるのかもしれないが。ほぼ無知といっていいほどの自分が、偉そうな口で第三の選択肢を唱えるのは、自分よりも全てを知る者からしては馬鹿らしく映るのだろう。でも、だからこそ何も知らないからこそ新しい選択肢を見つけれるかもしれない。自分の目からそらされるように背けられた目を見据え、「そりゃ、アホな考えかもしれへんけど。でも、やる前から諦めるなんて嫌や。――端っから諦めムードのあんたと違ってな」ふ、と目元に込めていた力を弱めて、からりと口角を上げ。さっきから男の諦めを含んだ表情が頭にこびりついて離れない。男のことも何も知らない、八咫烏と言われてもいまだ思い出せない。何も知らぬままこんな事を言うのはケンカを売っているとしか言えないが、それでもお前とは違うのだと、そう伝えたくて。得意げに緩まれる頬、それは先程から見ていた質の悪い笑いではない。身長も合わせればもはや可愛らしい少年にしか見えない。だが口にしたらどうなるかは既にわかっているため口はとじ。耳に届いた名前らしきもの。どこか懐かしさを感じさせる響き。頬に伝わる革手袋特有の肌触り。真正面からそれも、近くから見つめられ緊張を感じたのか体を固まらせ。自分を見つめるその表情が何かを懐かしむように見えて、「なぁ…、えっと、蝶藍だっけ。あんたは俺のこと知っとるんか?」左右で違うその瞳、頬に施された刺繍、後ろに見え隠れする濡れ羽色の羽。どう見ても人間とは思えない彼を見つめ、ただ純粋に興味からその問い掛けを、)
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