松野一松 2016-07-17 16:38:39 |
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一松>
―――ああ。約束しよう。俺はお前を一人にはしない。一松の方こそ、俺をおいていかないでくれ。(歯切れ悪く零れ落ちる言の葉達にゆるりと目淵を細めて笑み。素直に慣れない彼にしては譲歩した方だろう。こんなにも不器用で、どうしようもなく繊細な、いとおしい弟。長年秘めた想いが享受してからというもの、彼の傍らで過ごす毎日は今まで以上に色濃く輝いて見えた。それは現状にあっても変わりなく、曇天の下、光の射さない路地裏であっても、くすんでいる筈の世界はどこまでも鮮やかに網膜に焼き付いている。抱擁に応え、そうっと己の背に回された腕に、飴玉を煮溶かしたような甘い表情を浮かべたのは一瞬、ふと鼓膜を揺らした仔猫の鳴き声に、ぎゅうと恋人の体躯を腕の中に抱き締めては、名残惜しくもその体温を解放して。物音を警戒して影に隠れたが来訪者が見知った人物であることに気付いた黒猫が、甘えるように喉を鳴らしながら長い尾を揺らして弟の足元へ擦り寄る様に口角を吊り上げると冗談めかした調子で)――フ、熱い逢瀬をギャラリーに見られてしまったか。やっぱりこの子、お前が餌付けしていた子だったんだな。
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