匿名さん 2016-05-12 23:16:13 |
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深い黒鳶色の瞳に捕らえられ、女は一瞬どぎまぎしたが、表向きには平静を装いつつ、少女の手を取って答えた。
「テレサ・シーニュです。」
少女は女に取られた手を握り返し、微笑んだ。
「素敵な名前ね。私はマールブランシュ。」
繋いだ手は柔らかく、確かに体温を孕んでいた。女は、この少女は本当に普段は石像なのだろうか、と不思議に思った。
「私は、今日のような良く晴れた満月の夜以外は、身体が石になってしまって動けないの。」
女の内面を見透かしたかのように少女が言った。絹糸が解かれるような呆気なさで、繋いでいた手がほどかれる。
自由になった右手を少女は台座の上に置くと、月を見上げながら言葉を続けた。
「そして、折角生身の身体に戻れる今日のような夜でも、この広場からは出られないの。」
女は何か言いたい気持ちになったが、何も言うことができなかった。
「だから、初めての人とお話できるのは久々なのよ。嬉しいわ。」
少女は無邪気な顔で笑う。
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