藤村伊織 2016-05-07 12:59:57 |
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─…ッ!何す……、…! ……な、ん…だよ、何も泣く事ねぇだろ…(唇を解放し言葉を放った直後、不意にくらった頬への衝撃。抵抗されるのは承知の上、こうなる事も予想していなかったわけじゃない。けれど感情任せに放っただろう平手打ちは中々の威力で、ついカッと頭に血がのぼる。抗議しようと勢いに乗って横に逸らした顔を再度相手に向けた瞬間、ぎょっとしたように目を見開き。次から次へと溢れる涙に釘付けになり、言葉に詰まる。まさか泣かせてしまうとは思っていなかったようで、表情と声色に明らかな焦りの色を滲ませ。泣き顔を見られたくないのか顔を隠されてしまうが、ぽつりぽつりと心情を吐露し始めるか細い声からも精神的にも随分弱ってしまっている事が伝わる。思わず抱き締めてしまいたくなるが、何一つ大事な事を告げていないこのタイミングではまた混乱させるだけだとぐっと堪え。彼が言う “あの日” は、恐らくレッスンルームで抱き締めてしまった時だろう。事故だと誤魔化したつもりだが、やはり彼には鮮明な出来事として残ってしまったらしい。己が必死に葛藤している間彼もずっと悩んでおり、傷付けないよう最善策をとっていたつもりが、ここまで苦しめてしまっていた。罪悪感は確かにある。なのに、こんな時でさえ、他の者は見る事がないだろう彼の泣き顔がもっと見たい、そんな独占欲と高揚感にドクンと鼓動が響く。再び暴走しそうな熱を逃すように息を吐き出すと、宥めるような声色で静かに口にし)
…お前が言ってるのはレッスンルームでの事か?あれは事故だから忘れろって言ったじゃねぇか。
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