フルムーン 2016-05-03 02:16:08 |
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泣くな…嬉しいならば只笑っていればいいじゃないか。そう言っていても猫である僕の言葉が通ずる訳もなく、止まらない涙を只真っ直ぐに只じっと見詰める事しか出来なかった。
――――……。
青年と暮らし始めてから四度程の朝を迎えた、相変わらず青年は咳をし苦しそうにしながらも優しく澄ました顔を僕に向ける。
無理はするな、そう言ってみたのはこれで何度目か。意味の無い事でもこの青年にはいつか届く、そんな不確かな確信が僕に同じ事を繰り返させていた。
「紫苑、今日の夕食には母が鰻を用意してくれるらしいんだ。紫苑には白焼きを用意しよう、楽しみにしておいておくれ」
鰻…魚屋から盗みたくても独特な滑りで盗めなかった、あの魚か。白焼きとは何だろう、青年の出してくれる食事は毎度違えど美味な物ばかりだ此度も期待出来るだろう。僕は楽しみだ、そう返事した。
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