フルムーン 2016-05-03 02:16:08 |
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どうやらこの青年の名は聡一郎というらしい、僕でもそれ位気付けた。
そして女性をじっと見据えると、後ろから青年の声が聞こえた。
「母さん。雨に濡れていて、紫苑は…」
成る程、女性は青年の母親という訳か。
僕は、一体何だと言いたかったのだろう。
青年の言葉は女性の声に掻き消された。
「名前まで付けて…猫なんて入れて、もし何かあったらどうするのっ」
酷い金切り声だ。鼓膜が可笑しくなるのではないか、そう錯覚する程である。
それに、どうやら僕はこの家には不要の存在の様だ。すると突然、青年が咳き込み始めた。
「紫苑は…私の…ごほごほっ、ごほっごほっ」
口元に添えた青年の手が赤く染まる。
あれは何だ…青年は苦しいのか。
僕が人間なら、青年の背を擦ってやれる。
僕が人間なら、青年に薬を出して苦しみを和らげてやれるのに。
呆然とするなか、青年の母親の悲鳴に次ぎ医者を呼びに行く青年の母親の足音だけが響いた。
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