ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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付嬢に地図を描いてもらい、そこに店の名前も書いて貰った。
裏路地の分かりにくい場所に在るようで、俺は地図を見ながら歩く事10分。ようやく店の前に到着した。
「分かりづれぇ・・・・」
一見普通の民家。申し訳程度の看板。これで客が分かるのか不安になる。
「何でこんな場所に店構えてんだ。表通りの方が客が来るだろうに」
『あー。盗賊とかに襲われない様にじゃないのか?魔法具は良い金になるからな』
「―なんでシルバーがそんな事知ってんだよ…」
『常識だ!』
あーそうですか。すみませんね。常識が無くってよ!
木のドアを開けて中に入ると、コンビニ程の広さの中に所狭しと商品が陳列している。
ネックレス・指輪等のアクセサリー関係から鍋や鉄板と言う珍種までさまざまある。
高価そうな物は魔法が施されている透明の硝子のようなケースに入っている物もある。
その中に錬金釜らしき物を見つけた。
ざっと店内を見回し、カウンターの中に居る二十代後半の女性を見ると、俺とシルバーを交互に見て険しい顔をしている。俺の様な子供は買いに来ないのだろうか。それとも店内ペットお断りか?
『おい、誰がペットだ』
シルバーが何やら言ったが聞こえなかった事にしよう。
「すみません。錬金釜が欲しいんですけど」
「お使いかい?」
「いえ。俺が使いたいんですが」
まじまじと俺を見つめた女性は少し考えながら言った。
「錬金は才能が無い者には使えないよ。しかしあれだ。お前みたいな珍しい系統は久しぶりに見たぞ」
珍しいって何だよ。俺は珍獣か?
「まあいいだろう。だが、私も使いこなせない者に売る気はないよ。道具が可愛そうだからな。取り敢えずこれに手をかざしてみろ」
そう言ってカウンターの下から赤子の頭ほどの水晶を取り出した。
俺は言われたままに水晶の上に手をかざす。
水晶が虹色の光を帯びて光が消え去ると、手を離していいと言われ、手を離す。
その水晶を覗き込んだ女性が驚愕の表情になった。そして絞り出すように言葉を発する。
「お前は一体何者なんだ…」
「へっ?」
間の抜けた様な返事をしてしまったのもしょうがないと言うものだ。
いきなり「お前は一体何者だ」なんて言われても返事に困る。ここは「人間だ」と返すべきなのか、それとも「ただの冒険者だ」と言うべきなのか迷う。
「えっと、冒険者で普通の人間ですが。何か?」
結局全部言ってしまった。アホか俺は…。
「いや、悪い。そう言う意味で聞いたのではないんだ。私が言いたかったのは、普通の人間ごときが何故全属性の魔法を扱えるのか。と言う事なんだ。魔族でもない限りあり得ないだろ。普通」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「いや…、魔族でも無理があるな。精々4属性が良いとこだろう」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「で、お前は一体何者なんだい?」
それまで黙って大人しくしていたシルバーが突然喋り出した。
『それについては俺が説明してやる』
「やはりお主は従魔であったか。では聞こう」
『シオンが全属性を扱えるのは、精霊の加護を授かっているからだ。それも精霊王のな。
コイツはどうも精霊達に好かれているらしい。俺と初めて出会った時にも精霊たちがシオンの周りに纏わりついていたからな』
「そうか、お前は精霊の申し子なのか…」
「精霊の申し子?」
「知らんのか?精霊に愛されし人の子と言う意味だ」
「初めて聞いたな」
「知らないのも無理はない。精霊の申し子が最後に現れたのが約800年前だ。
人大陸にあるゴルティア国の英祖。つまり初代国王がそうだったそうだ」
「ゴルティア国の英祖…?」
「ああ。私も母親から聞いた事だから詳しくは知らないが、金色の髪に紫暗の瞳をしていたと聞いた。・・・・・・・・その髪…、その瞳の色…、まさか・・・・。」
『俺達は人大陸から来た』
シオンは「他人の空似」又は「偶然同じだけ」と思っていた。
自分の出生地が偶然にも同じ国だったと。
ただそれだけだと。
シオンは知らない。
生まれて直ぐに母を亡くしたから。
自分の父親が誰なのかを知らなかったのだ。
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