転生乱舞 ~ 目が覚めたら其処は 異世界だった

転生乱舞 ~ 目が覚めたら其処は 異世界だった

ムーン  2016-02-18 17:52:07 
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親に引いて貰ったレールの上を、何不自由なく生きてきた28年。
旧帝大を卒業し、一流企業に入社。

出世も仕事も順調で、後は嫁さんを貰って勝ち組イエーイ♪
の、はずだった。

仕事で三カ月の海外出張が決まり、その仕事もそつなくこなす。
そして帰りの飛行機の中で…、事件は起きた。


初めはハイジャックかと思ったが、テロだった。
それも自爆テロ。

犯人の動機も目的も、何もわからないうちに飛行機は爆破された。

そして、俺が目を覚まし、気が付いた時には、そこは異世界だったのだ。

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  • No.92 by ムーン  2016-04-28 22:19:01 

===== 



― コンコン

ドアを叩くノックの音がした。

ギルドマスターは「やっと来たか」と小さな声で呟くと「入りなさい」と声を返した。
中に入って来たのは背中に斧を背負った猪顔の獣人と真っ赤な瞳をした魔族の男。それと頭が禿げ上がり、腰に大剣をぶら下げてる人族の男だった。

獣族の人の年齢は分からないが、どことなく狂戦士に見える。
流石力こそが全てと豪語しているだけの種族だ。
魔族の方は年齢が三十歳前後だろうとは思うが、魔族は見た目じゃ判断が出来ないしな。
あいつ等って見た目二十歳でも実年齢が七十歳なんて言う奴もいるんだぞ。ほんと、分からん種族だわ。
そして最後に人族のおっさんだが、見た目通り三十代前半ってとこだろうな。
ロジャーと似たような感じだし。

問題はこのおっさんだ。
魔大陸の人は俺の事を蔑んだような目じゃ見て来ないんだけどさ、人大陸から来たこのおっさんの様な人は…言わなくても分かるよな?
そう。初対面から俺を見下してた。

鼻先でひと笑すると、こんな出来損ないでも従えられる妖狼なんて大した事が無い。
そう思ったんだろうな。

「ふん。この出来損ないがベルガーの飼い主だと?!まだ子狼じゃねえか。
 なるほどな。そう言う事か。なら俺でも使いこなせるってもんだな。」

シルバーを値踏みするように、舐め回すように様子をみる。
その視線にシルバーは唸り声をあげだした。

「一丁前に威嚇するだと?子供のくせに生意気な狼だ」

あまりにも不躾なその態度に、部屋に居る他の四人も顔を顰める。

「まぁまぁ、あんまり挑発せんでくれよ」

ギルドマスターが制止をする。
が。俺がこの場所に居る事自体が気に食わないのか、相変わらず態度は悪い。

「で、話しって言うのは何でしょう」

口火を切ったのは魔族の男だった。

「ああ、そうだった。実はだな ―」

ギルドマスターが言うには、実力のある者にタラン狩りをしてもらうと言う事と、倒す際にできるだけ大量の毒糸を吐かせろと言う事。

「しかし、あの毒糸は毒抜きしないと使えないブヒ」
「私共の方でもタランポイズンバスターを習得している者は居ませんが…」
「ポーションはギルドで用意してくれるならいいが、あれは一本金貨一枚はする
 代物だ。そんなに毒抜きするなら俺達で調達するのは無理だな」

三者三様それぞれの意見だ出る。
「ブヒ」ってるのが獣人で、丁寧語で喋ってるのが魔族。人族は…普通に喋ってるな。

「その事なら心配はいらん。そこのベルガーが毒抜きが出来るそうだ」

ギルドマスターと話していた三人がシルバーの方へと振り向く。
シルバーは唸るのを辞めて大人しく俺の足元でお座りをしていた。まるで飼い犬だね。

「ほぅ~。こいつがですかい。なるほど」

厭らしい目つきで再度舐め回すように見る。
それと同時にベルガーが唸る。
唸られた人族の男は「チッ」と舌打ちをし、話しを進めて行った。

「で、このベルガーを連れて行けばいいんですかい?」
「そうなんだが…、ベルガーだけを連れて行くのはまず無理だろうな」

うん。無理だね。
ロジャー達なら付いてくだろうけど、こいつには付いては行かない。仲間じゃないからな。
って言うか、俺が仲間と認めてないから完全に無理だな。

「ではこの少年も一緒と言う事ですか?」
「まぁ、そうなるな」

「しかしブヒ、子供が一緒だと守りながら戦うって事になるブヒ。
 それはチョットやりづらいブヒ」
「彼も一応冒険者だ。自分の身くらい自分で守れるだろうさ」

そう言って視線を俺の方へ向けて来た。

「はい。自分の身は自分で守れます」

余計な事は言わずにそれだけを答える。

「と、言う事だ。
 で、報酬の無いようだが、糸一塊につき金貨三十枚だ。
 彼にはそのベルガーが毒抜きをした分、一塊に対し金貨一枚を渡そうと思う。
 通常ならポーションを五本ほど使うところだ。安いもんだろ?」

「つまり、彼への報酬は私達が貰う金貨三十枚から一枚払えと言う事ですね」
「そう言う事だ」

「他の部位はその報酬には含まれないブヒか?」
「そうだ」

その話しを聞いた三人は力強く頷き、その依頼を承諾した。

俺の意思は無視ですか…そうですか…。
どうせ俺はシルバーのおまけだよ!チックショー

俺抜きで話しはどんどん進み、最後に欲に目が眩んだ人族の男がとんでもない事を言いだした。

「でもよー。使い物になるのはこのベルガーだけなんだろ。
 こんな出来損ないの言う事も聞いてるんだ。
 なら俺の言う事も聞くだろう。俺の方がこの出来損ないのガキより遥かに
 強いんだからな」

訳の分からん講釈を垂れたかと思うと

「おい!ベルガー!
 今から俺がお前のご主人様だ!」

そうのたまった。
おっさん。見た目判断はいかんよ?
いつか命取りになるぜ。
シルバーは見目は飼い犬っぽいけど妖狼なんだぜ?
そこんとこ忘れてないか?

あ~あ…。おっさんのその言い方でシルバー怒っちゃったよ…。
俺、知-らね。

「グルルルゥ」から唸り声がワンランクアップして「ガルルルゥゥゥ」に変化した。

「何だお前!ご主人様に対して唸ってんじゃねぇよ!こりゃ躾け直しだな」

そう言って右足を後ろに少し引き、シルバーを蹴り上げようとした。
足が前に出た瞬間、シルバーは男の足に噛み付き一瞬で足首を食いちぎる。

「ぎゃあああああああぁぁぁぁぁ」

男の情けない悲鳴が狭い部屋に響き渡り、男は床に転がりのたうち回る。
そこにシルバーが飛び乗りのど元に噛み付こうとした時、俺は大声で制止する。

「シルバー!そこまでだ!」

男の喉元まで後数ミリと言う所でシルバーは止まり、その大きく開かれた口元から覗かせている牙からは涎の様な糸が垂れてきていた。

突然の出来事で、獣人も魔族の男も咄嗟に動き事ができなかった。と言うより、体が動かなかったのだ。
妖狼であるシルバーの体から、物凄い質量の妖気が漂い、漏れ出していたからだ。
本気モードの妖狼に、いくら子供の妖狼だとはいっても、たかが人間では勝ち目がない。
いや、SSランクが十人もいれば勝てるかもしれないが。

正気に戻った他の四人は慌てた。
目の前にはシルバーに食いちぎられた人族の右足首が転がっており、その持ち主である男は既に床の上で気絶をしている。

魔族の男は幸い癒し術が使えるようで、右足首を急いで拾うと元の位置にくっ付けてヒールを施す。
切り落とされた直後だと問題なく元に戻るのだ。
但し今回は食い千切られたので多少は後遺症が残るかも知れないが、通常の生活には問題がないだろう。

今の事件でシルバーを連れて行く事に多少不安になった男達はシオンに聞いてきた。
ジョシュはと言うと、未だ声も出せず、腰が抜けた状態で床に座り込んでいる。

「君の名前を聞いてもいいかな」
「ハルシオン」

「その妖狼は君の従魔ですか?」
「友達です」

本当は従魔だけど、なんか《従魔》って響きが嫌なんだよな。
従魔っていうと、《下僕》ってイメージがあるじゃん。
俺はシルバーの事を下僕とは思っていない。
どちらかと言うと、ペット?が近いかな。
俺の相棒で友達。そして家族だ。死ぬまで俺が面倒を見る。そんな感じだ。

シルバーは、ペットと言う言葉に耳をピクンとさせたが、その後に続く言葉に満足していた。
私利私欲はなく、自然と発せられた言葉。その言葉がシルバーの中にストンと入り込んだ瞬間だった。

「なら、私とも友達になってくれると思いますか?」

俺はシルバーの方に視線を寄せたが、シルバーは「ふん」と、そっぽを向いた。

「無理みたいですね」

魔族の男は苦笑すると「残念ですね」とだけ言ったのだった。

結局シルバーだけを連れて行く事は不可能だと分かり、ハルシオンも一緒に行く事になり、今の状況に至っていると言う事だ。


獣人の男が率いる《最強》から六人。リーダーの名前は「オクタリア」。
魔族の男が率いる《ナイトクラブ》から八人。リーダーの名前は「ビクター」。
後の六人は腕に自信がある強者達が自己申告で集まって来た。
タランを狩り、吐かせた毒糸の数が今回の報酬となる出来高制だ。
各々力が入ると言うものだ。

普段なら取りたくても取れない高級資材が目の前のタランから吐き出される。
彼等には既に、お宝の山に見えている事だろう。
狩れるだけ狩ったその数はなんと。タランが十体にもなった。
勿論同じ場所で狩るわけではないので、毒抜きで走り回るシオンとシルバーは森中を走り回る。
距離にして30㌔位は走っただろうか。二人にはいい運動だ。

一体のタランから毒糸を搾り取れるだけ吐かせたので、その数は平均三塊程取れた。
合計で三十塊。今回のシオンの報酬は金貨三十枚だ。(三百万)
ただシルバーに噛んでもらって毒抜きをしただけでこの金額である。何気に申し訳ない気がしてくる。
他の冒険者の方も、いつも通りに魔物を倒して一体から平均三百万の儲けが出る。
これを三人で倒せば一人百万だ。
それを三体も倒せば一人三百万程の儲けを一日で稼いでしまったのだ。
こんな旨い話は過去にも、そしてこれからも滅多にある事ではない。
集まった冒険者達は大喜びでシオンとシルバーにお礼を言っている。

「いや~あ。こんなに旨い話は初めてだ。ありがとよ」

そんな言葉を言い残し、依頼完了手続きが終わると各々どこかへ消えて行ってしまった。

シオンは通帳機能も付いてるギルドカードを見ながら、

「結構貯まったな。これなら明日からランク上げに専念しても大丈夫そうだな」
『金が無かったのか?』

「そう言う訳じゃないけどさ。ギリギリで生活するより余裕で生活したいじゃん」
『そんなもんかね』
「そんなもんだ!」



今回の依頼は俺にじゃなくシルバーにだったので、ランク上げの依頼にはカウントされなかった。
あと1回。俺はFランクの仕事を完了しなければEランクには上がれない。
前回は纏めて取って来て数回に渡り完了手続きをしたために一気にこなしたのだ。
あと一回分Fランクの仕事を・・・・って!
そう言えば忘れてたぜ!
タラン狩りの時に、ついでにって見つけた薬草採取しておいたんだった!
これで完了だぜ!!


「おめでとうございます。Eランクに昇格いたしました」
「ありがと!」


今日は昇進祝いだ!
シルバーも好きな物食えよ♪
― キャウン♪


一人と一匹の、長くて短い夜が更けて行った。



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