ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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第二十七話
■ チーム《イカヅチ》のその後 ■
シオンをアシデ島へと送り出したその夜。港で涙の別れをしたはずのロジャー達は酒場で飲んでいた。
これから戦争が始まると言うのに、周りの雰囲気は暗く成るどころか陽気だ。
敵の兵士を百人倒せば銀貨一枚の報酬があり、司令官の首を持って帰れば金貨一枚の報酬となる。
司令官と言ってもピンキリで、小隊長で金貨一枚。中隊長で金貨二枚。大隊長が三枚だ。
総大将ともなれば破格の値段が付き、金貨三十枚が貰える。
平民がひと月に稼ぐ給料が平均して金貨一枚なので、総大将でも討てば余裕で二年は暮らせると言う事だ。
一獲千金を夢見る男達にはまたとないチャンスだろう。
「しかしこんなんで本当に戦争なんて始まるんっすかね」
「ゴルティアがあの状態なら近々おっ始めるだろうよ」
「何で分かるんっすか?」
「第三王子の母親がこの国の出身だからよ」
「??????」
クウの脳内は「?」で一杯だった。
恒例であれば第一皇子であるシュレッダーが王位に就くのが決まりだが、後ろ盾となる第一王妃は既に鬼籍となっている為、第一皇子であるシュレッダーより第三王子のジェイソン派の貴族が多いのである。
生真面目なシュレッダーであれば王位を継いでも何の問題もないが、ジェイソン派の貴族にしてみれば不正がしにくくなり旨味が少ない。
対してジェイソンは、小さい頃から我儘に育ち政務や祭り事にも興味が無く、ただ王座に座って偉そうにしていればいいと思っている愚息にすぎない。
腹黒い大臣や貴族にしてみれば、操り易い人形にしか考えていないのだ。
自分達に都合の良い政務を行い、税収をネコババする。
こんなに旨い話は嘗てない事だろう
したがってジェイソン派の貴族達は、シュレッダーを亡き者にしようと試行錯誤をしていた。
ある時は毒殺。またある時は闇討ち。
そのどれもが悉(ことごと)く失敗に終わっているが、ここに一つの計画を立てていた。
内乱に持ち込み、その後ろから隣国であるシャブリ帝国に襲わせようと。
シャブリ帝国はジェイソンの母親の母国である。
その国王はジェイソンから見れば祖父にあたる。
此方もまた、ゴルティアの大臣ウスラから内々に打診があり、一年前から準備を進めてきていた。
内戦でシュレッダーの命を取れなくても、外からシャブリが攻めてくれば、シュレッダーの事だ、内より外に目を向けるだろう。
シャブリとシュレッダーが交戦している隙に、本来なら味方であるゴルティアの兵士がその命を絶つ。
それにより必然的に王座は残った王子ジェイソンに行く事になるのだ。
戦争のどさくさに紛れてしまえば、敵も味方も分からなくなる乱戦になる。
シュレッダーの性格からすると、兵士たちの士気を高めるために自ら先陣を切る事だろう。
この機会を逃し、もし失敗でもしたのなら、再びこの様な好機は巡って来ないだろう。
故に、失敗は絶対に許されないのだった。
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規模の小さな小競り合いが、第一皇子と第三王子との間で七カ月続いていた。
一進後退の状況は両者変わらず、中々決着がつかない。
第一皇子派は正規の国軍である近衛隊+皇子の私兵で固められているが、第三王子派の兵士は、その全てが貴族達の私兵と王子個人の私兵による軍隊である。
数は第三王子の方が多いが、統制が取れているのは第一皇子の方だ。
それ故に中々決着が付かない揚げ句に、街中でも出合い頭に剣を振り合うと言う事もしばしば起こっていた。
国民は不安になり「もうどっちでもいいからさっさと王座に着いてくれ」と、内心では思っていても声に出しては言えないのが現状だ。
国内がこんな有様では安心して生活が出来ない。そう思っている人も大勢いる。
そんな折、国境付近で守りを固めていた兵士から伝令が届く。
シャブリ帝国の軍隊およそ三万兵がゴルティアに向かって行進してきていると。
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ロジャー、クウ、リカルド、クリフは剣士として最前線へ送られた。
冒険者としての実績を買われたのだろう。
ファインは魔術師として後方支援へ送られ、貴重なヒール使いと言う事で医療班へと回された。
ヒールを使える光の魔術師は少なく、ファインを入れても六人程度しかいない。
故に、力が弱くても一応は使えると言う者が集められ、総勢二十人程となった。
ファインの様に外傷だけでなく内臓も修復できるわけではないが、居ないよりマシと言う事だろう。
そして、秘密裏に立てられたジャブリとゴルティア第三王子派との、茶番とも言える戦争が、今まさに幕開けとなるのだった。
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