ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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・・・・・・・・・・・・・・・。
やっぱり派手なラブホに見える…。
ここに入るの何か躊躇するんだよな…。
大きな溜息を吐きながら木製のドアに手をかけ中に入る。
午前中だというのに朝から酒を飲んでる人が食堂の中に沢山いる。
それを尻目に俺は依頼書が張ってある掲示板の前に行く。
今日は何の依頼を受けようかな。
薬草は無理だから手伝いになるのか?
顎に手を当て考えていると、昨日の受付のお姉さんが俺の所に来て声を掛ける。
「ハルシオンさんですよね?」
「ハイそうですが。何か?」
「すみませんがちょっと此方の方に来てもらえませんか?」
言われるままにお姉さんの後を付いて行く。
お姉さんは受付の横にある細い廊下を奥へと進むと、突き当りにある凄く立派なドアの前で立ち止まった。
ドアの上に書いてあるプレートには《ギルド・マスター》と書かれている。
俺なんか不味い事やったっけ?
不安になりつつも動揺はしていない。
何も悪い事などしていないのだからな。
「ハルシオンさんをご案内いたしました」
ドアをノックしてから声を掛ける。
「ああ。入ってもいらいなさい」
お姉さんがドアを開けると、中には四十代くらいの屈強な男性がソファーの一人掛け椅子の方に座っている。容姿はゴリラの様な顔だが優しそうだ。オデコの皺が深く食い込んでいるのが印象的だった。
その向かいにある長椅子の方にはジョシュの姿があった。
俺は軽くお辞儀をした後に中に入り、勧められるままに長椅子に座る。
「そんなに緊張せんでもええで。実はな、お前達に聞きたい事があったんや。
昨日持って来たタランの糸の事やが、その・・・お前さんの横に座ってるベルガーが
やったって話やが間違いないか」
「間違いないです」
「そうか。物は相談やが、タラン討伐に行かへんか?」
「俺はまだそんなレベルじゃないと思いますが…」
「レベル的にはそうや。だが、そっちのジョシュと言う子の話しによれば
並の冒険者より強いというやないか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
俺は無言のまま隣に座っているジョシュを睨んだ。
何余計な事言ってくれるんだよ。
そんな目をしていたと思う。
その視線に気が付いたジョシュはバツが悪そうな顔をするかと思いきや、意気揚々と答える。
「そうなんです。ハルシオンは人大陸で冒険者の経験があったみたいで、
かなりの腕前でした」
俺は目頭を押さえて、俯きながら首を左右に振り溜息を吐く。
良い奴だと思ったのにな…。
だけどジョシュの目的は何だ。
俺はそのまま話しを聞く事にした。
「あんな所に生えてるツルギ草といい、中和術といい、ベルガーと言う生き物は
大したもんやな。
敵になれば恐怖そのものだが味方になると頼もしい限りやで」
さっきから話が先に進まないんだけど、何が言いたいんだ?
「で、話しって何ですか?」
「そうやった。実はな。タランの糸をもっと集めて欲しいんや」
「それなら依頼書を張りだせばよくないですか?」
「それはそうなんやけどな。毒を抜く中和液は知っての通り高いやろ?
ましてはそんな高度な魔術を使えるような魔術師なんかおらへんのや」
「そうそう。だから君に頼みたいんだってさ。
僕も手伝うから大丈夫だよね」
はは~ん。そう言う事か。
ランク上げの為にちまちま依頼をこなしてもさほど金にはならないもんな。
昨日みたいに大物の魔物を倒して部位を売ったり、人じゃ絶対に取れない場所に生えてるツルギ草だって、シルバーがいれば安全かつ大量に手に入るし?
魔物だって一匹なら魔族でも倒せるかもしれないが、それ以上の集団になって来ると命に関わるしな。
近距離の俺が居れば、遠距離の人はほぼ安全だし、いざとなれば俺を見捨てて自分だけ逃げればいいだけだもんな。考えたな。
だが、然うは問屋が卸さない。
「あ~・・・・、昨日タランを倒したのは偶然ですよ?
俺にそんな実力なんてないです。」
「でも毒抜きは出来るんやろ?」
「毒抜き中和が出来るのはシルバーですよ?」
「だからそのベルガーを連れてタラン討伐に行ってくれないやろか」
「どうしても行けと言うんですか?」
「出来ればでいいんやけどな」
「大丈夫だって。僕も一緒に行ってあげるからさ」
いやいやいや!誰かを守りながら戦うのって結構疲れるんだよな!
やっとローズの子守から解放されたと思ったのに、今度はお前かよ!!
「無理っす…。昨日は一匹だけだったから良いようなものの、二匹現れたら
ジョシュの事まで守れないので…」
「僕は守ってもらおうなんて思ってないよ?自分の事は自分で守れるさ」
・・・・・・どう思う?シルバー。
『無理だな。あのガキは自分の魔力を過信し過ぎている。大怪我するぞ』
「えっと、シルバーが居るから大丈夫だとは思わないでくださいね。
シルバーは基本的には俺の事しか守りませんから」
「・・・・・・‥やっぱりそう言う間柄だったのかい?」
「ぶっちゃけ言うとそうなりますね」
「「ほぅ~」」
ゴリラマスターとジョシュは「やっぱりな」と言う顔で頷いた。
その後話し合いは平行線で、俺が「うん」と言うまで話が終わりそうもなかった。
同じ内容を二時間も話され説得された俺は精神的に疲れ果ててしまい、とうとう首を縦に振ったのだった。
「分かりました・・・・。その以来お受けします。
ただし!付いて来るなら自己責任でお願いしますよ!」
「分かってるよ」
ジョシュは嬉しそうな顔をしているが、目が「¥」マークになってるぞ!
話し合いが終わり時計を見ると、お昼を少し過ぎた時間だった。
ギルド内にある食堂で食事をとり終えると、俺は受付のお姉さんの所に行き、長期宿泊を申し出た。
部屋代は二食付きで一日大銅貨三枚。大部屋だと大銅貨二枚だそうだ。
それと、長期滞在になると前金で個室が六銀で借りられるそうだ。三銀も安い!
大部屋だと四銀らしいが、他人と気を使いながら暮らすのはごめんだ。
俺は迷わず個室の部屋を取った。
部屋の中は質素な造りで、広さも六畳間程度だ。
一般の宿屋との大きな違いは流し台がある事だろう。
自分で調理が可能なタイプの部屋だった。
風呂は大浴場が四階にあるらしいが、部屋にもシャワーだけなら付いている。
半畳程度の大きさだけどな!
この部屋がこれから半年間の俺の部屋だ。
ここを起点に実力を上げてロジャーに褒めてもらうんだ。
そう思っただけでも笑みが零れ落ちてくる。
半年でどれだけ成長できるか分からないが、俺は俺なりに精一杯頑張るつもりだ。
今日から俺の、新しい冒険の始まりだ!
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