ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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惚けててもしょうがない。
本来行くはずだったアシデ島じゃないって事が分かった今、俺達がしなければいけない事は一つだ。
アシデ島に行く船を見つける事。
しかし困った。
船着き場に船は、今は一隻も見えない。
あるのは小型の漁船ぐらいだ。それも手漕ぎの。
船の切符売り場の様な所はあるものの、人はおらず閉まっている。
今日はもう出港はしないんだろうな。
さてどうするか。
とりあえずは日が暮れる前に宿屋でも探すか。
魔大陸と言う事だけは分かったが、それ以外の情報が全く無いのがいたいな。
・・・・・ちょっと待てよ。ここは魔大陸と言ったよな。
俺達が居た所は確か《人大陸》だったはずだ。
って事は、別の大陸と言う事か。
ユーラシア大陸とアフリカ大陸みたいに繋がった大陸なのか、それとも北アメリカ大陸の様に海を挟んでの大陸なのか…、どっちだ。
後者なら…。そう考えると冷汗が出て来た。
「何一人でブツブツ言ってるのよ。気持ち悪いわね」
ローズは俺の後ろをずっと付いて来てたようで、独り言を言ってる俺を訝しげな顔で見ている。
「取り敢えず宿屋を探すぞ」
「ちょっと!アタシに命令しないでくれる?生意気なのよアンタ!」
海遭難から五日、ずっとこの調子だ。
イラッとは来るけどもう慣れてしまっている自分が怖いわ。
「あー、はいはい。
俺は宿屋を探すけどローズは好きにしていいよ」
「ちょっ!アタシも探すわよ!」
うん。ちょっと扱いに慣れて来たぞ。
ほんと、黙ってれば可愛いのに、残念な子だよな。
宿屋を探しながら大通りを歩くと、以外と宿屋の数は多く直ぐに見つかった。
ローズも居る事だしセキュリティーの安全な宿屋を選んだ。
どうせ安宿なんかには泊まりたくない、とか駄々を捏ねるに決まっているからだ。
手頃な値段で安全そうな宿を見つけ、チェックインをするために宿の扉を開ける。
入って直ぐにカウンターがあり、右手の方には食堂の入り口がある。
外に食べに行かない分安全だな。夜中は煩そうだけど。
そうと決まれば部屋を取ろう。
俺はカウンターの上に置いてある鈴を鳴らした。
― チリン チリン…
カウンターの奥にある扉から、犬耳を頭に着け、フサフサの尻尾を揺らしながら宿屋のおっさんが出て来た。
ここは獣族の人が経営してる宿だったのか…。
おっさんはニヤニヤとしながら。
「二人かい?」と尋ねて来た。
二人って事はローズとって事だよな。
何勘違いしてるんだかこのおっさんは。
「いえ。俺とシルバーです」
そう言ってシルバーが見えやすいように、足元に大人しくいたシルバーを抱き上げた。
おっさんはシルバーの姿を見た瞬間固まっている。
どうしたんだ。一体何があった。この短時間で!
「あの~…」
ハッ!と我に返ったのか、おっさんは気を取り直し、
「えっ?!いやっ。ちょっと驚いてだな…」
歯切れが悪いが、この宿はペット禁止だったのかな。
「ここはペット禁止の宿ですか?」
「ぺっ、ペットだと?!」
何でそんなに驚くんだよ…。
従魔は良くても犬はダメなのかよ!
『俺は犬じゃない!』
シルバー、ちょっと黙ってようか。
『犬じゃないし…』
「はい、俺が飼ってるペットのシルバーです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おっさんの目が虚ろになって何処かに彷徨っている。
いったい何だって言うんだよぉ!
『アン アン!(泊めるのか泊めないのかどっちなんだよ!)』
「は、はい!!!ご宿泊ですね!喜んでお部屋をご用意いたします!ハイ!」
えっと・・・、これはもしかして…。
俺は微妙な、犬と狼の力関係を連想した。
狼の遠吠え一つで町中の犬が反応をし吠えだすと言う話しを昔聞いた事がある。
飼い犬より野良犬。野良犬より狼。そんな感じの力関係があったはずだ。
そして犬は、自分より強い相手には腹を見せて降伏のポーズを取ると。
おっさんは腹を見せはしなかったが、完璧に降伏状態の様だった。
シルバー…怖い子。
部屋を取る前に確認しなきゃな。
「えっと。ここから船は何処まで行きますか?」
「何処に行きたいんだ」
「アシデ島です」
「アシデ島なら明後日出港するはずだよ」
「明後日ですか。なら二泊分お願いします」
「分かった。一泊大銅貨五枚で二日分だから銀貨一枚になるが良いかな?」
「それでお願いします」
俺は袋から銀貨を一枚出して渡した。
「はいよ。確かに。で、そっちのお嬢さんはどうするんだい?」
「お願いするわ」
「何泊だい?」
「二泊でお願い」
ローズも二泊取り、それぞれの部屋へと案内してもらう。
「こっちがお嬢ちゃんで、向こう側がお前さんの部屋だ。
後、晩御飯と朝食が付くから下の食堂まで降りてきな」
俺は軽く会釈をすると、自分の部屋の鍵を受け取り中に入った。
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