ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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第二十一話
■ 別れ ■
あれから一週間ほどでシャブリ帝国の王都《ドラグ》にやって来た。
シルバーの事は大型犬の子犬だと言う事にしている。誰も疑ってない。
大型犬の子犬だと言い張るくらいだから、その姿もかなり大きいのだが。
ぶっちゃけ、成狼になると、ハイジに出てくるヨーゼフ位の大きさになるそうだ。
デカイな。エサ代って俺持ちなのか?・・・・頑張って稼ぐしかないか。
ローズとは相変わらずの仲だ。
しかし、アイツも少し成長したかな。
初対面の時は最悪な態度だったが、最近は大人しいもんな。
それに時々シルバーの事を見つめてるし。
だから触りたけりゃ言えば良いのにな。そこは相変わらずの察してちゃんだ。
シルバーも知ってか知らずか、俺の傍から離れようとしないもんだから、触る機会が無いらしいぞ。ヤレヤレ。
ドラグに着くまでに幾つかの町や村を通ったが、近々戦争が起こりそうだと言っていた。
村人や町の大人たちは、武具や武器を調達する姿が目立ってたな。
ロジャー達も何か隠してるみたいで、その事にはあまり触れないようにしてるのが見え見えだ。
俺はと言えば、言いたくない事を無理に聞く気もないし、そのうち話してくれるだろうとのんびり構えてたんだ。
そして今夜。その話しと言う爆弾が投下された。
食事が終わると珍しく誰も酒場には行こうとはしなかった。
何かいつもと違う、そう思ったんだが、俺は深く考えなかった。
そう。いつもとちょっと違うな。疲れてんのかな。程度にしか思っていなかったんだ。
するとロジャーから全員集合の号令がかけられた。
端から見れば出来損ないの奴隷に見えるが、そんな俺は1人部屋を貰っていた。
そこにクウが呼びに来たんだ。
「シオン。兄いんとこ行くぞ」
「会議?」
「・・・・・・・似たようなもんだ」
今まで今後の予定を組む時に俺は呼ばれた事が無いぞ。
てか、大抵三人部屋でロジャーの居る部屋でやってたんだけどな。
勿論俺もそこには居るが、「子供には関係ねぇ」の一言で隅に追いやられてたっけ。
まぁ、聞き耳のスキルを持つ俺には、2㌔以内だったら聞こえるんだけどな。
逆に言えばだ。2㌔先にでも俺を捨ててこないと無駄だと言う事だ。
「兄い、連れてきましたぜ」
ロジャーの部屋に入ると全員が集まっていた。
それも少し緊張した趣(おもむ)きで。
「シオン。俺達はこのシャブリ帝国でやらなきゃいけない事ができた。
上手くいけば儲けもデカイ。
だがな、シオン。お前は邪魔になる」
「!!!!!!!!」
邪魔ってどういう事だよ!
「ロジャーさん、そんな言い方ではシオンが誤解しますよ」
ロジャーは少し困った顔をしながら苦笑する。
「邪魔って、どういうことですか」
俺は意味が分からず問いかける。
「良く聞けシオン。この国は近々戦争になる。
シャブリ国民は当然だが、俺達冒険者も戦力の対象となる。
無論それなりの報酬は出るがな」
「それと俺が邪魔になるって、どう結びつくんですか」
「戦争に参加できるのは十五歳以上の成人男性と言う事だ」
「・・・・・・・・・・・・」
「それにだな。この王都にも火種が降りかかると俺達は予想した」
クウ達四人は「うんうん」と首を小さく縦に振る。
ロジャーの話しを要約するとこうだ。
今、ゴルティア国では王座を巡り内戦中だ。
その隙を狙いゴルティア国へ行進し国を奪い領土を広げる気らしい。
正式な王様が居ない今、指揮系統もバラバラなので落としやすいと言う事だ。
しかし、この計画を考えているのはシャブリ帝国だけではなく、それそれの隣国も同じ考えらしい。
そうするとシャブリに面したアルタ国辺りが、兵士を大幅に移動した隙にこの国へ攻めてくる可能性があると言う事だった。
したがってこの王都は諸戦火の中心地になるだろうとロジャーは予測した。
が、この王都に居る限り逃げ道は無い。
東の街道はゴルティアに繋がっており戦争真っただ中になる。
北は高い山脈で《死の山脈》とも呼ばれている。超える事はできない。
南は…、当然の如くアルタ国が存在している。逃げ道は無い。
あるとすれば西側にある海から船で脱出するのみだった。詰んだね。
!!てか、船で逃げればいいじゃん!
そうだよ。皆で船で避難すればいいんだ。
「俺達は残って戦う。お前は…船で避難しろ」
「!!! 何で僕一人で逃げなきゃいけないんだよ!?
皆で逃げればいいじゃん!」
「そう言う訳にもいかねぇんだ。大丈夫だ。戦争が終わったら迎えに行く」
「ヤダ!絶対に嫌だああああああああああ!
皆と一緒が良いいいいいい!」
「我がまま言うな!これは決まった事なんだ!」
「・・・・・ヤダ…。一緒が良い・・・・」
ロジャーは困った顔で、苦笑しながらシオンの頭を撫でた。
「心配するな。必ず迎えに行く」
「そうっす。迎えに行くっすよ」
「だな。小さな島だけど良い所らしいぞ?」
「そうですねー。私達が迎えに行くまでに魔石を幾つか集めといてもらえれば
嬉しいですね」
「・・・・・・それってファインさんが欲しいだけじゃ・・・・」
「ははは、そりゃ良いな。シオン頼めるか?」
俺は涙目になっていたが、涙を流すまいと必死で堪え、「・・・・うん」と答えるのが精一杯だった。
「よし。そうと決まれば出発は明日だ」
早くね?今すぐ戦争が始まるわけでもないのに明日とか。
早過ぎだろ!!
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