ムーン 2016-02-18 17:52:07 |
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俺達は宿を探し、荷物と馬車を預けると、各自自由行動となった。
今回は宿屋に空室が沢山あるという事で、1人部屋が提供された。
ここしばらく1人部屋など泊まれなかったロジャー達は大喜びだ。
これでファインのイビキとかクリフの歯ぎしりで夜中に起こされなくて済むからな。
ロジャーからは極力宿から出るなと言われてたが、こんな機会はめったにないだろ?
この世界に来て十年。
初めての旅だぞ?
観光しない手があるかっつーの。
って事で、町の中心街をブラブラと歩いている。
金はこの間貰った銀貨があるし、買い食いでも堪能しようかと思う。
所々にある屋台から美味そうな匂いもしてくるしな。
一番初めに目に留まった屋台は串肉屋だ。
味付けはタレ。中々うまいぞこれ。
次は饅頭屋。
中身は何じゃろな~。
ワクワクしながらかぶりつくと。
中に入っていたのは一枚の紙。
『水難注意』だった。
何じゃこれわあああああああ?!
味は普通の蒸し饅頭だな。
小一時間ほど町の中を歩き回ると少し疲れたので、店の横に積んである木箱に腰をかけて通りを眺めていた。
今は人通りが少ない方だとは言っても、結構な人の群れだ。
少し人に酔ったかもしれない。
手に豆の様なおやつが入った袋を持ちながらボーっと人の流れを眺めていた。
するとそこに、何やら難しい顔をして仲間と話しながら歩いてくる男三人組がいた。
その向かいからは大瓶を頭の上に乗せた女性が歩いてくる。
男達はその女性を見ていない。
危ない!と思った瞬間に男達と女性がぶつかった。
バランスを崩した女性は頭の上に乗せていた瓶を、俺の方に向かって倒して来やがった。
― バシャッ
俺は思いっきり頭から水浴びをした。
俺に詫びでも入れるのかと思いきや、その女はぶつかって来た男に詫びを入れている。
「申し訳ございません。どうかお許しください」
何故男に謝るのかと思っていたら、ほんのちょっぴり水がかかったようだった。
それに対しての詫びだろう。
しかし解せぬ。
俺の方が大量に水を被ったんだがな。
俺の方は無視かい?
「これぐらい何ともない。気にするな」
そりゃそうだわな。
濡れたって言ってもほんの二・三滴だもんな。
それで怒ったらどんだけ器が小さいんだよ。って事だよな。
許して貰ったと思ったのか、その女は俺の目の前に転がってる瓶を拾い上げるとそのまま何処かに行きやがった。
おい!俺にゴメンナサイは無いのかよ!!
性格の悪い女だな…。
女の風貌か?
年の頃は三十前後ってとこかな。
美人でもなければブスでもないかな。
男の方は、なかなかイケメンだぞ。
来てる物も何となく高価そうだし。
どっかの貴族かな?
水を掛けられた男が俺の方を見て苦笑してるわ。
あっ。懐からハンカチらしき物を取り出したぞ。
ちょっぴり濡れたところを拭くのか?
いや、違うな。
俺の方に向かって歩いて来たぞ。
「災難だったね。これで拭きなさい」
おお!良い奴じゃないか!
でも布小さいよ…。足りないわこれじゃ。
「ありがとうございます」
俺はハンカチで拭き拭きした。
まぁ、魔術を使えばこれくらい直ぐに乾かせるんだけどさ。
折角の好意だから有難く受け取っておくよ。
濡れた顔と髪の毛の雫を拭きとって、男にハンカチを返そうと手を差し出したら、その男がいきなり俺に向かって倒れ掛かって来た。
今度は何だ!?
見ると男の背中には短剣が刺さっていた。
マジか・・・・。
一緒にいた男2人は、刺された男の従者のようで、一人が慌てて刺した犯人を追いかけて行く。
刺された男は赤い髪。
犯人を追って行った男は黒い髪。
付き添っている男は青い髪だ。
つまり、治癒魔法を使える者がいないと言う事だった。
周りを見てもオレンジ色の髪の人間は1人もいない。
元々オレンジと黒髪は希少価値らしい。
俺はオレンジになりそこないの金髪だ。
それでも治癒魔法が使えるかどうか、付き添っていた男が聞いてきた。
「おい!そこの子供。お前は治癒魔法が使えるか?!
いや‥‥、その色じゃ使えないか…クッソ…。誰か治癒師を呼んできてくれ!」
なんだそれ。
それが人に物を頼む時に言う言葉か?
胸糞悪い奴だな。
こう言う奴はシカトでいいな。
でも待てよ。
こいつは嫌なやつだけど、ハンカチを貸してくれたやつは良い奴だったし…。
俺の事をバカにしたりさげすんだりしなかった。
しかたがない。このままにしといたらコイツ死んじゃうもんな…。
受けた恩はきっちり返させてもらうぜ兄ちゃん。
「どいてください。僕が治しますから」
「なっ!お前なんかにできる訳が無いだろ!
この出来損ないが!」
酷い言われようだな…。
久し振りに聞いたぜ「出来損ない」発言をさ。
孤児院に居た頃は良く聞いてたけどな!
「そのまま放っておいたらその人死んじゃいますよ?」
有無を言わさず俺は刺された男の体に手をかざす。
掌から温かい波動が流れ出し、ドクドク流れていた血も止まり、男の顔に赤みが戻ってきた。
「よし。これでもう大丈夫ですよ」
俺は文句を言われる前に走って逃げた。
面倒事に関わるのはごめんだ。
この時ばかりはロジャーのシゴキに感謝した。
しごかれてなきゃ怒涛の如く逃げる事が出来なかっただろう。
マジ感謝だぜ。
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