主 2016-01-14 00:10:06 |
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[小説]プロローグ4
遠くの方で何かが爆発するような音が耳に届いた。蓮の奴、派手にやってるな。
「これで敵は蓮先輩の方へ行きますかね」
「行ってくれればいいんだけど」
もしも蓮の方へ敵が引き寄せられてくれれば、その間ゴールまでの道中は手薄になる。攻撃手段を持たない俺だが、敵のゴールさえ見えれば届く──いや、届かせてみせる。
「あっ!ゴールが見えました!──あれ?敵が、一人?」
苺の言う通り、ゴールは目の前で敵も一人だけ。陽動は上手くいったんだ。これなら俺のテクニカルツールで──!
「甘ェ……」
次の瞬間、隣にいたはずの苺の体が後方まで吹き飛ばされる。
「きゃ、あっ……!」
何があったのか、理解が追いつかない。一瞬でここまできたのか? そんなこと、俺のテクニカルツールでも出来ない──!
「はっ……お前が司令塔か? 駄目だなァ、てんでなっちゃいねェ……」
目の前の男は回し蹴りを繰り出し、俺の体を吹き飛ばす。
なんだ、それは。速度だけじゃなくて、攻撃も出来るのかよ……っ!
地面に倒れこむと同時、解説者の声が微かに耳に届いた。
「……そんな。蓮以外のアタッカーが全滅……?」
蓮の陽動は成功した。解説者の実況通りなら蓮の元へ敵が3人向かい、ウチのアタッカーが敵の1人を抑えていた。だと、言うのに。
俺が、ゴール出来なかったせいで──。いや、何を諦めてるんだ!せめて一点でも取って一矢報いるんだ!
俺はテクニカルツールを起動させ、一瞬の加速を利用してゴールまで突っ込んだ。スピードに乗らずとも一瞬で最高速度を叩き出せる加速力を持ってすれば──!
「──お前、向いてねェよ」
「え……?」
俺は、いつの間にか空を見上げていた。よくよく見てみれば、どうやら俺は地べたに倒れ込んでいるようだった。
「捻りのねェ一点突破。そんなもん、この世界じゃ通用しねェ」
こいつは、あの加速に追いついて、俺の足を刈り上げたのか? その行動を、俺は捉えられなかった。
「ましてや俺の動きに目が追いついてねェ。ランナーの癖になァ。──才能がねェ。司令塔としても、選手としても」
男は俺を見下し、吐き捨てるように言った。
「お前は弱ェ。今の力が、お前の限界だ」
「………………」
俺は、その言葉で完全に戦意を喪失した。ここから挽回できる手立てなんて、一切思い浮かばない。
ピー!と攻撃終了を知らせる笛が鳴った。
それから何が起こったのか、全く記憶にない。試合は当然3ー0で負け。勝負にすらならなかったようだ。
俺たちは試合会場を後にして、誰一人口を開くことなく自然と帰路について行った。一人、また一人と俺の元から離れていく。
その後俺はアライヴァルをやる気にもなれず、高校もアライヴァル部がない学校へ進学した。あいつのたった一言が俺の胸に強く突き刺さっていたからだ。
「才能がない」。きっとこれが、俺の全てなんだろう。だったらアンリヴァルなんて止めた方が、気が楽だった。
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