主 2016-01-14 00:10:06 |
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[小説]プロローグ3
「さてさて!天成学院超ピンチです!残っている選手は蓮選手に苺選手、そして秋選手のみ!これは……勝てる、のでしょうか」
頭上から聞こえる解説の言葉は何一つ頭に入ってこなかった。俺は込み上げる吐き気をグッと堪える。
試合にならない。勝てる気がしない。仲間が一人一人倒れていく。
「くそ、最初から連中は俺たちを弄ぶつもりだったんだ……!」
地獄のような攻撃が終了し、守備の順番が回ってきた時、蓮はそう口にした。
その言葉を聞いて、俺も強く歯を噛み締めた。
「なんでこんなことに……」
苺は俯きつつ、そう呟いた。
何故、こんなことに、か。俺は今までの出来事を振り返った。
試合開始直後。俺達はすぐにその場から駆け出して3km先のゴールを目指した。今回の試合会場、つまりフィールドは市街地。死角が多く、どこから敵が現れるか分からない為ランナーとしてはこれ以上ないくらい緊張感が高まるステージだろう。だが俺の後ろにはランナーを支援するアシスターの苺に、敵のディフェンスからランナーを守ってくれる蓮たちアタッカーが控えている。この上なく頼りになる面子だ。
「静かですね、先輩」
「ああ。走り出したばかりだし、まだ敵は遥か向こうだろうな」
「作戦はどうするよ」
蓮の言葉に俺は思案する。いつもならこのまま敵陣まで突っ込むところだが、今回の敵は高校生。ましてや強豪校だ。慎重に動いた方がいいだろう。
「俺と苺はしばらく進んだら一旦待機する。蓮は3人を引き連れて先行。何かあったら無線で報告することを忘れずに」
「慎重だな。時間内にゴール出来んのか?」
「お前らがディフェンスを食い止めてくれたら隙をついて突破するよ。任せてくれ」
「頼りになることこの上ないねぇ」
一回の攻撃には時間制限がある。20分以内に敵のゴールにたどり着けなければ攻撃終了。守備に回ることになる。
「んじゃ先行ってくるわ。──お前ら行くぞ」
おう、と返事をする仲間達を引き連れて蓮は先へ進む。
「秋先輩、今回はなんでここで待機なんですか?」
「敵のやり口が分からないからな。トラップを仕掛けられている可能性もあるし。ランナーである俺が倒されたらその時点で負けだ」
トラップ、なんて物騒な言葉を口にするが心配はない。俺たちは試合中プロテクトスーツと呼ばれる特殊な服を身にまとっている。どんな攻撃だろうと、このスーツを着用している間は無傷でやり過ごせる。
ただしこのスーツには耐久値が定められており、それが0になってしまうと強制的にベンチへ転送。そして二度とこの試合には出られなくなってしまう。
それがアタッカーやアシスターならまだ試合は続行できるが、ランナーだとその時点で負け。だから俺は被弾に十分気をつける必要があった。
別行動を開始してしばらく経った頃。不意に苺が声を上げた。
「あっ、蓮先輩から無線が入りました」
「……蓮か?どうした」
「仲間と分断された。今は2、2で行動中。指示を頼む」
分断か。確かに効率のいいやり方だ。回名山の選手なら一人でもウチのアタッカー二人を相手取ることも可能だろう。
「蓮は戻れ。他のアタッカーは敵のディフェンスを食い止めろ。ただし無理はするな。危険だと判断したらその場からすぐに退避」
アタッカー達の返事を聞き終えてから俺は無線から手を離した。
蓮を戻したのには理由がある。まず俺や苺には攻撃手段がない。俺のテクニカルツールは走ること特化だし、苺のそれも支援系だ。だから途中で敵と出くわしてしまえばそれまでということ。
「どうしましょうか、先輩」
「アタッカーが敵のディフェンス二人を食い止めてくれてる間にこちらも出る。蓮を途中で回収し、三人で敵陣を突破する」
ゴールが見えたらこっちのものだ。俺の相棒(テクニカルツール)を使って、得点を奪う。
と、そこで今まで無視していた解説の声が一際大きな声を上げる。
「あーーっと!ここで天成学院の生徒が一人ノックダウーン!!回名山、やはり強い!」
その言葉を聞いて俺は絶句した。今、あの解説者は何と言った? 倒された、のか? ウチのチームメイトが?
「……さっき無線でやり取りしたばかりだぞ。この短時間で倒されたのか? いくらなんでもそれは……」
ウチのアタッカーは実力者揃いだと自負している。蓮を始め、他のアタッカー達も簡単にくたばる玉じゃない。出なければ中学の大会で優勝なんて出来やしない。
「秋!倒されたのは俺が置いてきたアタッカーだ!敵のディフェンスが一人、自由になるぞ!!」
無線から聞こえる蓮の声で我に帰る。
くそ、マズイな。その敵はどっちに来る? 俺のところか? それとも蓮を追う? いや、もしくは敵陣に残っているアタッカー達の方か?
「せ、先輩……」
苺が心配そうな声を上げる。
駄目だ、こんな時に混乱するんじゃない。俺は大きく深呼吸をした。
「蓮、悪いが陽動頼めるか。俺たちとは離れた場所で暴れて、敵を引きつけてくれ」
「……しゃあねぇ、やってやるか」
「数分でいい。危なくなったらすぐに逃げろ」
「了解」
蓮が敵を引きつけてくれている間が勝負だ。なんとしてでもゴールが見える位置まで辿り着いてみせる。
「行くぞ、苺!」
「はい!」
俺たちはその場から敵のゴールまで一目散に駆け出した。
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