太陽 2015-12-22 01:12:59 |
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≪7話≫
「ふた……ご?」
俺が聞き返すと沖花は「はい」と頷き、
「杏菜、こっちおいで」
と手招きをした。
杏菜は虚ろな表情でふらふらと沖花の元へ歩み寄った。
「杏菜、ダメでしょ?勝手に家から出たら」
沖花はしゃがんで杏菜の手を自分の両手で包み込んで窘める。
「………………………」
だが杏菜は何も言わずに沖花の顔をじっと見つめていた。
明らかに普通の子供とは違う。
俺は桃菜の無邪気な笑みを思い出していた。
同じ顔をしてはいるが………本当に杏菜は桃菜の妹なのだろうか?
沖花はしばらく沈黙した後、ゆっくりと立ち上がると俺達に頭を下げた。
「杏菜がご迷惑をお掛けしたようで」
「ああいや……別に俺達は何もしてねぇから………えと…それより…その子……一体………」
俺が口籠ると、沖花は察しがついたようで少し悲しそうな表情を浮かべた。
「ああ…杏菜は、声が出せないんです」
「声が?」
「ええ。桃菜が居なくなってから喋れなくなったんです。失声症っていうんですかね」
「…………………………」
桃菜が居なくなってから………。
俺が黙っていると沖花はぱっと笑顔に戻った。
「まあ、いつかは治るものですからね。今は治療中なんです。それなのに杏菜はよく家から抜け出しちゃって。見つけて頂きありがとうございます」
そう言うと、沖花と杏菜は去って行った。
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