太陽 2015-12-22 01:12:59 |
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≪4話≫
この少女は今、何と言った?
見えるの、と言ったよな。
私が見えるの、と。
この質問に答えるならば、イエスだ。
ばっちり見えるし、やや一方的だが触れる事だって出来た。
俺はしっからと少女に顔を向け、全身を隈なく観察した。
うん、見える。ちゃんと見える。
だが恐らく、
俺だけだ。
見えているのは。
………。
少女との間に、長い沈黙が落ちた。
先に口を開いたのは少女の方だった。
「……やっぱり見えてるんだね」
少女は嬉しそうな顔で俺を見つめた。
「お前は……幽霊、なのか?」
色々と聞きたい事や言いたい事があったが、俺の口から出てきたのはその一言だった。
少女は一瞬ハッとして、その後少し寂しそうな顔をした。
「そういう言い方もできるんだけどね…」
※
少女は沖花桃菜と名乗った。
彼女はやはりこの世の人間では無かった。
だが、幽霊と呼ばれるのも嫌っていた。
いきなり人生が終わって、どこにも行く事が出来ずにいたら急に異形扱いされるのだ。
生きているか死んでいるかの差があるだけで、彼女もれっきとした人間だ。
幽霊などと呼ばれて嬉しい分けが無い。
あの泣き声はこの子のものだったのか……。
何故か俺はそう確信できた。
……………………ん?
なんーーか引っ掛かるものがあるぞ?
あ。
「お、おいお前…」
「お前なんて呼び方はやめてよ。桃菜って呼んで」
恋人か。
「えーーと、桃菜……。桃菜の姿は普通見えないんだよな?」
「うん」
「じゃあ、触る事って普通はできる物なのか?」
「うん。できるよ」
「………さっき桃菜は俺にタックルかましてきたよな」
「うん」
「その時はまだ俺が霊感ある事を知らなかったんだよな……?」
「うん!だって私、私のこと見えない人に対してもタックルしてるよ?」
「……………何のために?」
「ストレス発散!」
怖いよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
都会やっぱ怖いよおおおおおおおおおおおおおおおおお!
老若男女生死問わず怖いよおおおおおおおおおおおおお!
俺が声も出せずに硬直していると、桃菜はずいっと距離を詰めてきた。
「今まで誰も私に気づいてくれなかったの!ねえ、ここは何かの縁だと思ってさ!ちょっと相談に乗ってくれる?」
…………………………………。
…えーーーー。
やだーーーーー。
というのが俺の本心だ。
だってこの子性格悪そうだし。
つか十中八九悪いし。
……でも、
泣いてたしなあ。
……………………………。
「あー………聞くだけ聞いてやるよ」
※
桃菜は去年の冬、事故で死んだらしい。
その事自体には悔いはなく、完全に桃菜本人の不注意が原因だったそうだ。
ただ一つ桃菜には心残りがあった。
それは4つ歳の離れた兄だ。名前は春という。
今年から高校生になるその兄は、優しいけど気が弱く、桃菜は高校で苛められないか心配していた。
桃菜は自分が死んだあとも春の事を見守り続けたらしい。
だが高校生になった春は初日から苛められ始めたという。
「………その苛めをやめさせればいいのか?」
てっきりそういう事だと思い、俺は桃菜の説明に口を挟んだ。
だが桃菜は複雑な表情を浮かべた。
「うん……それもあるんだけどね…」
「他にも何かあるのか?」
「………お守り」
「?」
「私がお兄ちゃんに作ったお守りが、苛めっこに取られちゃったの。どこに隠したか私にも分からなくて…」
「取り返してきて欲しいのか?」
桃菜は無言で頷いた。
…………こいつ、結構可愛いとこあるな…。
兄の為の手作りお守りか……。
「……分かった。俺が取り返して来てやる」
俺がそう言った途端、桃菜の顔が一気に輝いた。
「良いの!?ありがとう!えーっとね、お兄ちゃんの学校は白前高等学校ってとこでね……」
≪4話・完≫
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