太陽 2015-12-22 01:12:59 |
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≪3話≫
どれくらい時間が経ったのか分からない。
さっきからひたすら走り続けている。
声はほとんど聞こえないくらい途切れていた。
だが、その声だけが今は頼りだ。耳を澄ませ、声に向かってただ両足を交互に出し続ける。
これだけの事なのに何故こんなにも疲れるのだろう。もう俺の体力と精神力は限界に達していた。
そのためだろうか。
「はっ…はあっ……くっ…う、うああ!」
………何も無い所で転んだ。
……いや、絶対そのためだな。そうじゃないと俺のメンタルがもう持たない…。
何も無い所で転ぶって…女子じゃないんだから……女子でも高校生でこんな奴いないか……。………………。
…言い直そう。2次元の女子じゃないんだから……。
「ねえ」
いやあ、それにしても誰も見てなかったのは不幸中の幸いってやつですか。
「ねえ」
雪とかならともかく、何の面識も無い人(特に女性)に見られるっていうのはなあ。
「ねえってば」
ん…あれ…そう言えば何か大事な事を忘れているような……。
「ねーえー!」
あ…声………。
「あのn
「ああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
「ひゃああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
泣き声!泣き声が聞こえなくなってるうううう!!
やばいよやばいよ今までの苦労が水の泡だよおおお!
俺は物凄い勢いで跳ね起き、耳を澄ませた。………………。………………………。………………………………。
やっぱり…。
「何も聞こえない、か……」
「じゃないよおおおおおおおおおお!!!」
と、何者かに激しいタックルを食らった。
完全に油断していたせいか、2mほど吹っ飛ぶ俺。
そして声も出せぬまま、先ほどと同じ姿勢で地面に倒れる俺。
「人が倒れてるから心配して声かけたのに!無視したあげく急に大声あげるからびっくりしたじゃん!ひどいよおおお!!」
俺にタックルをかました相手は、一方的に何か喚き散らすと倒れている俺を更にぽかぽかと叩きだした。
ぽかぽかぽかぽかぽか。
…なるほど。
ぽかぽかされているうちに、俺はだんだん冷静になってきた。
今の言葉を整理すると、どうやらこの人は転んだ俺に声をかけてくれたらしい。
だが俺は反応しなかったうえに大声でびびらせてしまったと。
それは俺が悪い。いや今の状況から見て全て悪いとは断言できないが、まあほとんど俺が悪いのだろう。
まず俺の方から謝らないとな……と俺は思い、顔を上げて相手を見た。
そこには涙目で顔を真っ赤にしてこっちを睨む少女が立っていた。
年は11歳くらいだろうか。なかなかに整った顔つきをしている。
「えーーと、まあ、悪かったな……」
とりあえず俺は謝った。腑に落ちない部分もあるが、ここは大人の余裕を見せよう。
「驚かせてごめんな。でも、無視してたんじゃなくて聞こえなかっただけで……」
まずは落ち着かせようと思い、俺は少女に優しく話しかける。
「本当ごめん。だから怒らないで、ね」
言って俺は微笑んでみせた。
そしてチラリと少女の顔色を伺う。
どうだ?落ち着いたか?
…………………………………………………………………………………………え?
少女は落ち着くどころか目を大きく見開き、茫然と俺を見つめていた。
予想外の反応だった。
どどうすればいいんだ?ここ、この場合……。
俺が軽いパニック状態に陥っていると、少女が何か呟いた。
「………えるの?」
「え?な、なに?」
「わ、私が見えるの!?」
………………は?
………………え?
えーーーーーーーーーーーーーーーーーー?
≪3話・完≫
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