宇治抹 2015-11-01 19:02:42 |
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【プロローグ】
カンッ、カンッ、と甲高い金属音が鳴り響く。音の正体は剣と剣とのぶつかり合いだった。今この場では、剣士同士による激しい戦いが繰り広げられている。
「──やってますな。どうですか、今年の選手は」
「面白いですよ。中学生といっても、予選を通過してきただけはある。実力派揃いですね」
「ほほう。それは楽しみだ」
スーツを着込んだ中年の男性らが、目の前の試合を見物しながら楽しそうに言葉を交わす。
彼らはとことん好きなんだろう。ブレードというスポーツが。
ブレード──簡単に言ってしまえば剣と剣とのぶつかり合い。先に敵を倒した方が勝者という単純明快なルールで試合は行われる。
ブレードには個人戦、団体戦とあるが今こちらで行われている試合は団体戦。4対4の白熱した戦いが繰り広げられていた。
中学最強の座を求めて、選手たちは己の剣を手に戦いへ挑む。予選を通過しただけあって、どの選手も強者揃いだ。
「特に彼、一宮(いちみや)直太郎(なおたろう)君は素晴らしいですよ。もはや中学生のレベルを超えている」
そんな強者揃いの中で一際異彩を放つ存在がいた。
一宮直太郎。優勝候補と名高い彼は、ブレード界で最強の選手と謳われる父を持ち、高校生にして大人顔負けの実力を兼ね備えた兄を持つ。そんな二人の血を色濃く受け継いだ直太郎もまた、天才と言うべき人物の一人だった。
大会に出向いたお偉いさんとでも言うべき面々も、直太郎の試合が目的だと言っても過言ではないだろう。
そんな直太郎と運悪く対戦することになった選手たちは口を揃えてこう言う。「勝てるわけがない」と。
実際、直太郎の動きは中学生のそれをゆうに越えていた。ズバ抜けて高い身体能力に優れた動体視力。だが、彼を最強と言わしめた理由は他にある。
あれは一回戦での出来事だった。
「要注意人物は一宮だ。一宮さえ倒せば後はどうとでもなる」
直太郎の対戦相手だった小久保中学所属、ブレード部主将が試合方針を定めた。まずは4人で直太郎を強襲する、と。
試合開始とともに作戦を実行した小久保中学の選手ら4人は、同時に直太郎へ襲いかかった。避けようがない強烈な一撃ととともに。
「……甘いな」
直太郎はボソッと一言呟く。その言葉は誰も聞き取れなかっただろう。だからこそ、誰も気がつかなかった。直太郎の周囲がパチパチと雷を帯びていることに。
「──なんだ、と!?」
気づいたときにはもう遅かった。
直太郎は自身を中心に、膨大な量の雷を周囲に放出する。それは今まさに直太郎へ襲いかからんとしていた敵選手ら全員を巻き込み、4人まとめて撃破した。
「あれが一宮君の剣異──雷鳴(いかづち)……」
大会に参加する選手らは皆一様にその脅威を目の当たりにしていた。
剣異とは、剣に埋め込まれた回路を通じて、己の内に眠る異能の力を引き出すもの。それによって迫力ある試合を楽しめるのも、ブレードの醍醐味の一つだろう。
そんな剣異の力を存分に振るう直太郎の能力名は、雷鳴(いかづち)。
自身を中心とした雷の放出や空から降り注ぐ雷撃の槍など、その様はまさに天変地異そのもの。
恐らくこの大会で直太郎に勝てる者は存在しないだろうと思わせるほど、その力は圧倒的だった。
だがそれは直太郎を慢心させることへと繋がった。
それは2戦目に起こった出来事だ。直太郎はチームメイトの一人と広大なフィールドを駆け回っていた。
「ナオちゃん!独断専行はダメだ!ちゃんと皆を待たないと!」
「必要ねぇよ。この程度の連中なら俺一人でも勝てる」
その言葉通り、直太郎の活躍はめざましいものだった。たった一人で敵チームの2人を撃破し、数的に有利な状況を作り出していたのだ。この時点で、直太郎達の勝利は揺るがないものとなっただろう。
「ナオちゃん!向こうも一人倒したって!敵チームは残り一人なんだし、そんなに慌てる必要はないよ!」
必死に直太郎の後を追う彼は大きな声を上げて制止を乞う。離れた場所で戦っていたチームメイトの活躍によって敵の一人を倒したというのに、それでも直太郎が止まることはなかった。
直太郎は敵を倒すことしか考えていない。彼の声が直太郎の耳に届くことはなかった。
「──見つけた。手こずらせやがって」
ようやくのことで敵の姿を捉えた。
直太郎は一目散に駆け出す。しかしそれは、手を出してはいけない相手だった。
「ナオちゃんッ!駄目だ、その人は──!」
友の声は届かず、直太郎の剣は容赦なく敵の体を斬り裂いた。
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