雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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「………。」
確かに女性の言う通りだと思う。
これは僕が一人で決めていい問題ではない。
まず僕の意思。それで全てが始まり、女性の了承。そして……
「君は親御さんの許可を貰ってもないでしょう。君はまだ子供だから親御さんが反対したらこの縁談は残念だけど成立しない。今までもよくいたのよ、ここで小さな猫を見て、可愛くて家に連れて行ったものの、親御さんから飼うのを反対されて返しに来る子達がね。」
そう、そして……
家族の賛同が必要だ。
僕はまだそれを得ていない。
それが得られなければ仔猫とは一緒にいられないことは頭のどこかでは分かっていた。でも今まで考えの表面には出てこなかった。
大事なことなのに。
ただこの仔猫を連れて帰りたい。
それだけになっていた。
そんな大事なことをおざなりにして女性に猫が欲しいと言うなんて、僕の方こそ後先考えない行動をしている。
でも僕は普段はそんな軽率なことはしない、と自負している。
僕らしくないと自分で思う。
「親御さんが飼って良いと言ったらまたおいでよ。」
何で僕はこの仔猫に執心するのだろう。
考えている僕に、そう女性が言った。
そして僕に近付くと両手を僕の前に差し出してきた。いや、仔猫の前に差し出した。
仔猫をその手に渡す。
「分かりました。家族の許しを貰ってからまた来ます。」
女性は頷くが、表情に困った色が含まれている。その理由は直ぐに女性の口から吐露された。
「許しがもらえたらね。でも、期待しない方が良いと思う。この子はさ、ハンディがあるからね。親御さんは反対する確率が高いと思う。でもきっと、反対するのは君の苦労を考えてだよ。高校生にもなって猫が欲しいと言えば、自分で面倒みるのが条件になるだろうからね。実際、元気な猫を飼うよりも大変だもん。」
女性の話を聞き、ピンッときた。
女性は、僕にもう一度よく考えるように促しているのだと。勿論、家族が仔猫を飼うことを反対するだろうという推測も本心だろうが、
本当に君は盲目の仔猫を飼う覚悟が出来ているの?
そう問われているのだ。そして考える時間を僕に呉れようとしている。
「駄目でもさ、あんまりガッカリしないで……。あたしはさ、嬉しかったよ。この子が欲しいと言ってくれる人がいて。つい顔が綻んじゃうくらいに。」
猫を抱えながら、女性は僕に笑顔を向けた。
「また来ます!」
丁寧に頭を下げ、再び帰路に着く。
暫く歩くと、
ミャァ~
仔猫が鳴き声が響いた。
足を止め振り向くと女性は見送ってくれていた。そして仔猫は女性の手の中で暴れている。
「あははー、君と離れたくないのかな!こんな大声聞いたことがない!」
女性は、暴れる仔猫を落とさないよう身体を屈めながら、離れた場所にいる僕に聞こえるように大きめの声をあげた。
僕はもう一度頭を下げ、歩き出した。
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