雪風 2015-06-07 23:36:40 |
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家に帰ると、いつも通りお風呂に入り、離れで食事を摂った。
その後、本来は勉強を始めるが今日は違った。
僕は探し物をしていた。
女性の家からの帰り際、女性は家の中から小さなオリーブの枝で編まれた籠を持ってきて、仔猫をそこに寝かせるように頼んできた。
仔猫がほとんど動けなくなってからは、その籠の中で仔猫は過ごしているという。
「この子の寝床よ。」
女性はそう言っていた。
何枚かフワフワしたタオルが敷かれてあり、居心地は良さそうだった。
が、一番上に置かれていたタオルの色が仔猫の身体と同じ白い色で、何だか味気なさを感じた。
タンスの中をあさると、淡い水色のタオルがあった。
探し物が見つかった。
ビニールに入ったままのまだ使ってないタオル。
これを買ったのは、まだ小学生の時だった。
お母さんの離婚前。
僕の本当のお父さんとお母さんと三人で行った最後の家族旅行で買ってもらった。
海の近くの土産物屋で僕がねだった。
「こんなものが欲しいのか?タオルだぞ。」
お父さんが笑う。
「しかも無地じゃない。」
お母さんも笑っていた。
それが嬉しかったのを鮮明に覚えている。
もうお父さんが離れていくのは分かっていた。何も聞いていなかったけど察していた。
三人で行く最後の旅行。
僕は子供心に、何かをねだらないといけない気がしていた。
何故そう思ったのか今の僕には解らない。
もしかすると何か欲しいと言えば二人が喜ぶのではないかと考えたのかもしれない。
でも土産物屋に僕の欲しいと思う物はなかった。一生懸命探したけどなかった。
きっとあの時の僕に欲しいものなど無かったのだと思う。
ただお父さんとお母さんが仲良くしている姿を……いや、仲良くなくても険悪ではない光景が欲しかった。
だから二人が笑ってくれて嬉しかったのだろう。
欲しくもないが買ってもらい、使うこともなく今日までタンスの中に眠っていたタオル。
今はあの時にねだって良かったと思う。
だって、あの仔猫にとても似合う色だ。
鞄の中にタオルを入れ込む。
明日は図書館に寄らずに、女性の家に行こう。そして、このタオルをあのオリーブの枝の籠に敷こう。
そう思った。
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