雪風 2015-06-07 23:36:40 |
通報 |
家に着くと離れに寄ることなく、荷物を持ったまま母屋に行った。
覚悟はついている。後は家族の賛成を取り付けるだけだ。
入り口の扉の前に立つと呼び鈴を鳴らした。
母屋の鍵は父が渡してくれていたが使ったことがない。
驚くほど早くお母さんが扉を開けた。
「お帰りなさい!あなたが走ってくるのが中から見えたから……、あら!ずいぶん濡れてるじゃない。傘を持ってなかったの?タオル持ってくる。」
強い雨ではなかったが、自分が思っているよりビシャビシャの様だ。
お母さんは小走りで奥に消え、そして直ぐにタオルを持って戻ってきた。
「早く頭を拭いて。そしたら今日はご飯前にお風呂に入っちゃっいなさい。もう入れてあるから。」
僕の住む離れにはお風呂はない。いつも母屋まで入りに来ている。普段ならば食事を離れに運び一人で摂り、食べ終わったら食器を母屋に返し、お風呂を借りて離れに戻るという順番だ。
「聞いて欲しいことがあるんだ。」
お風呂に入っている場合じゃない。
「……どうしたの?」
僕を見てお母さんは不安になったようだ。顔つきで分かる。
きっと僕の表情がお母さんを警戒させているのだろう。それだけ僕は真剣なのだ。
質問には答えずに、
「お父さんはいる?結衣ちやんは?」
と聞く。
話はお母さんだけにではない。お父さんにも妹にも聞いてもらわなければならない。
結衣とは妹の名前だ。
「リビングにいるけど……いったいどうしたの?」
お母さんの顔は益々不安そうになる。何か僕が厄介な問題を持ち込こんで来たのではないかと警戒している様だ。
この家に来て間もないお母さんにとって、血の繋がる僕に厄介事を持ち込んでほしくはないだろう。
お母さんは何を想像しているだろう。僕が何と言うと思っているのだろう。
「猫を飼いたいんだ。」
そうお母さんに告げた。
お母さんにとって、これは厄介事だろうか。
それを測る為に言った。
お母さんの反応は……
「そう。それならお父さんに聞いてみないとね。」
安堵したようで、心なしか表情が和らぐ。
なんだ、そんなことだったの……
そんな言葉が聞こえてきそうだ。
僕も安心する。少なくともお母さんは反対しないと思えた。
僕は荷物を床に置き、頭を素早く拭いてタオルをお母さんに返す。
「直ぐに話してくる。」
靴を脱いで玄関に上がると、お母さんの脇をすり抜けてリビングに向かう。
少し長めの廊下を歩き、リビングに続く扉を静かに開けた。
広いリビングにお父さんと結衣はいた。
お父さんはソファーに座りゴルフクラブを磨いている。
結衣は絨毯に座り込み、足の短いガラス製のテーブルにほほづえを着きながらテレビを観ている。
二人とも扉を背にしているので、僕に気づいていない。
「お邪魔します……。あの、二人に話したいことがあるんです。」
トピック検索 |