◇ 2015-04-07 15:10:11 |
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>山姥切国広×創作女審神者
(風も絶えた夏の夜の闇が、重く蒸し暑く垂れこめていた。日中、容赦ない陽光に照らされ続けた空気は逃げ場なくその場に留まり、湯浴み後にも関わらず歩くだけで額に薄い汗の粒を浮かぶ。暑いという言葉の代わりのように零れ出る溜息は何度目か。廊下の突き当りを曲がろうとしたその時、 "わっ!" 仄暗い闇から飛び出してくる人影と突如聞こえた弾むような音に驚きの声も出ず、咄嗟に身体を硬直させ橄欖石を思わせる双眸を瞠り。呼吸を忘れるも束の間、ひとつ瞬くと幼子の如く悪戯の主が自身の恋仲にあたるものだと気付き深く息を吐き出して。眉間に皺を寄せて呆れを多く含む視線を投げ掛けるも、その先に立つ彼女は歯牙にもかけず楽し気に笑んでおり、怒る気も失せて無意識のうちに表情は緩んだ。"先日の花火大会で撮った寫眞が出来た"と一つの冊子にまとめたものを差し出してきた彼女を自身の部屋に誘い、天井から吊り下がる照明の灯りのもと、隣り合わせに座し写真を眺めながら言葉を交わす。表紙に描かれたてるてる坊主は自身を示しているものらしく、照れくささに卑屈な発言を忘れて布を引き下げ。宵闇に浮かぶ大輪の火花と出店のものに舌鼓を打つ笑顔の刀剣たち。彼女の華奢な指が背表紙を閉じたところで、 "来年の夏も一緒に行こうね" 震えを隠すような上擦った声に喉が詰まり時が止まる。戦場に身をおくだけでなく刀の付喪神という曖昧な存在にとって、来年というものは酷く不確かな未来。一拍の後に恐る恐る襤褸布を上げて横顔を窺えば、切ないほどの優しい微笑が映り、思わず畳に付いて身体を支えている手を握り締め。汗ばんだ手が振り払われないか、等と尻込みする余裕もない。不思議そうに首を傾げる彼女に身を寄せて、不安ごと封じ込めるよう静かに唇を重ねた)
( 願わくば、来年も再来年も――来世も共に。 )
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